小説「新・人間革命」  12月18日 未来26

クラスごとの集いのあと、幼稚園の庭で、記念植樹が行われた。「王子桜」「王女桜」には、山本伸一と園児が一緒にシャベルを持って土をかけた。また、「父桜」「母桜」の植樹は、保護者の代表が行った。

 庭に揚げられた「鯉のぼり」が、風に泳ぎながら、その光景を見守っていた。

 入園式を終えた園児と保護者らは、園舎の玄関に立て掛けられた、「入園おめでとう」という看板の横や、幼稚園のバスの前で、記念のカメラに納まっていた。

 このバスは、クリーム色の車体で、ウサギやゾウ、サル、キリン、リスなどの絵が描かれていた。園児たちは、その絵を指でなぞったり、バスのなかをのぞき込もうとしたりする。バスが気になって仕方がないようだ。

 伸一は、園長の館野光三に尋ねた。

 「今日は、バスは出さないんですか」

 「明朝の登園からとなっております」

 「そうですか……。子どもたちが、かなり興味をもっているようなので、試運転ということで、これから走らせてはどうだろうか。私も一緒に乗って、みんなを送りますよ」

 「えっ、山本先生がですか!」

 頷く伸一を見て、館野は微笑んだ。そして、園児たちに発表した。

 「皆さん、今日は、創立者の山本先生が、バスで皆さんを送ってくださることになりました」

 園児からも父母からも、歓声があがった。

 伸一は、園児の通園状況を、できる限り自分の目で確かめておきたかった。“どんなコースを回るのか”“時間は、どのぐらいかかるのか”“安全な乗り降りができるのか”など、状況を正しく把握していなくては、“見守る”ことはできないからだ。

 彼は、一つ一つを、決してなおざりにはしなかった。小さなことを見過ごすことが、大きな事故につながりかねないからである。

 誰も気にもとめないような細かいこと、小さなことにも気を配り、完璧にしていこうという行動こそ、責任感の表れといえよう。