小説「新・人間革命」  12月19日 未来27

札幌創価幼稚園のバスには、四、五十分で戻ってこられる三つのコースがあった。それぞれに、何カ所か、園児が乗り降りする場所が定められていた。

 この日は、そのうちの一コースだけを運行することになった。

 園児たちは、山本伸一を囲むように席に座った。バスが走り出すと、伸一は、子どもたちに語りかけた。

 「『むすんでひらいて』を歌おうよ」

 「うん、いいよ」

 皆が口々に言い、合唱が始まった。

 歌い終わると、子どもたちは、ますます元気づき、園児の一人が言った。

 「ねえ、なぞなぞしようよ」

 「いいよ」と、伸一が答えると、「やったー」と声をあげた。

 「じゃあ出すよ。大きな羽をつけて、上がったり下がったりするもの、なあーに?」

 「チョウチョかな?」

 「当たり!」

 乗降場所に着くと、数人ずつ、バスから降りて行く。伸一は、そのたびに「さようなら。また明日ね」と、手を振って送った。

 「山本先生、ありがとう! さようなら」

 子どもたちも、嬉しそうに言い、母親に手を引かれて家に向かって行く。

 バスが、交差点で信号待ちをしていた時のことであった。「プスッ」という音がして、エンジンが止まってしまった。運転手が何度もキーを回したが、エンジンはかからない。バスの後ろには渋滞の車列ができていく。

 運転手の青年は、顔色を失い、バスから降りて、バッテリーを調べた。

 伸一は、子どもたちを不安にさせないように、なぞなぞなど、遊びを続けた。母親たちも、その伸一を見て、安心したようだ。

 彼は、微笑みながら、母親に言った。

 「ご家庭でも、何があっても、お母さんが悠然としていれば、子どもは安心します。その強さこそが、愛情なんです。それが、子どもを守ることにもつながります」