小説「新・人間革命」  12月28日 未来34

山本伸一は、この日の夕方、園長の館野光三と各保育室を見て回った。動物園へ行った時のことを描いた絵など、“小さな芸術家”の力作が展示されていた。

 さらに、保育室で、子どものイスに腰掛け、教職員との懇談が始まった。伸一は、教員が用意した、第一回「未来っ子まつり」や秋の遠足のアルバムなどを丹念に見ながら、園児の成長の歩みを振り返った。

 それから、園児は、年末、いつまで幼稚園に来るのかを尋ね、こう語った。

 「実は、お正月のお年玉として、私が書いた童話『少年とさくら』の本を、園児全員に贈りたいと思っているんです。年内最後の登園日に間に合うようにします」

 教職員は、日々の業務に追われ、子どもたちのお正月を、どう祝うかなど、全く考えていなかった。

それに対して、日々、多忙を極める、創価学会の会長である伸一が、常に園児のことを考えている事実に、皆、感嘆したのである。

 懇談の最後に、館野が言った。

 「山本先生は、今日、お帰りになりますので、園児に、何か、ご伝言をいただければと思いますが……」

 伸一は、頷いた。

 「わかりました。園児たちには、こう伝えてください。

 『皆さんは、私の代わりに留守番をしているつもりで、幼稚園を守ってください。そして、幼稚園を自分のおうちだと思って、大切にし、生涯、この幼稚園を守り抜いてください。

いつも、いつも、みんなが幸せになるように祈っています』」

 「幼稚園を守り抜いてください」という園児への伝言が、教職員は意外だったようだ。

 しかし、使命を自覚するなかに、人間の成長はあるのだ。伸一は、園児たちを対等の人格と考え、創立者の自分と同じ自覚に立ってほしかった。

使命の種子を植えたかったのである。そこに、教育の要諦があるというのが、彼の確信であった。