小説「新・人間革命」   2月26日 学光26

佐江一志は、十八歳の春、友人の勧めもあって、定時制高校に入学した。

 彼が定時制高校の四年になった、一九六四年(昭和三十九年)六月のことである。山本伸一は、第七回学生部総会で、創価大学の設立構想を発表した。

 それが掲載された聖教新聞を、佐江は目にした。そこで伸一は、こう語っていた。

 「その大学で、世界の平和に寄与すべき大人材をつくり上げたい。その時に、諸君のなかから、大仏法を根底とした、各専門分野における大教授が出て、教壇に立っていただきたい。

その目的達成、すなわち世界の大指導者に育て上げるために、その大学で頑張っていただきたいと、お願い申し上げたいのであります」

 佐江は、日ごろ、学会の男子部の先輩たちが、「祈りとして叶わざるはなしの信心だ」と語っていたことを思い出し、母に尋ねた。

 「この信心は、必ず願いが叶うというのは本当かな。もし、そうなら、真剣に祈れば、俺でも創価大学の先生になれるのか」

 ささやかな願望はあったが、本当になろうなどとは考えていなかった。なれないに決まっていると思っていたからだ。むしろ、信心に熱心な母親を、困らせてみたいという気持ちの方が強かった。

 しかし、予想外の言葉が返ってきた。

 「なれますよ。なれますとも。お前がしっかりと題目を唱え、努力を続けていけば、絶対になれます!」

 その声は、確信にあふれていた。母親の顔は、喜びで輝いていた。

 佐江は、自分の可能性を信じてくれている母親の言葉が嬉しかった。

 自分を信じ、期待してくれている人がいる――そう自覚する時、人は、大きな力を発揮することができる。

 "よし、やってみよう!"

 彼は、決意した。

 二十二歳で定時制高校を卒業した佐江は、中央大学法学部の通信教育部に進んだ。