小説「新・人間革命」 4月28日 勇気23
第二回「飛翔会」総会の会場となった大田区体育館からは、山本伸一にゆかりの深い森ケ崎海岸まで、徒歩三十分ほどであった。
総会終了後、東北、九州、中部などから参加したメンバーの要請に応え、二部学生担当の学生部幹部が、森ケ崎海岸に希望者を案内した。
森ケ崎海岸といっても、かつて伸一が「磯の香高く波かえし」「崩れし土手に草深く いかなる虫か知らねども……」と詠んだ、
あの風情は既になく、著しい変容を遂げている。メンバーは、その説明を受けてはいた。それでも、わが師の青春の思い出が刻印された、海辺に立ってみたかったのである。
海は埋め立てが進み、岸辺はコンクリートで固められていた。頭上には、高速道路、モノレールが走っている。だが、皆、その海に目を輝かせ、深呼吸した。
彼らの眼は、波が寄せ返す月下の浜辺で、友と語り合う十九歳の伸一を思い描いていた。苦しみ悩んで基督の道を行くという友に、"君に幸あれ!"と祈る、伸一の清き心を、見ていたのであろう。
「『森ケ崎海岸』を歌おう!」
肩を組み、合唱が始まった。
岸辺に友と 森ケ崎 磯の香高く 波かえし 十九の青春 道まよい 哲学語り 時はすぐ……
夕暮れの海岸に、スクラムが揺れた。
友の孤愁に われもまた 無限の願望 人生を 苦しみ開くと 誓いしに 友は微笑み 約しけん……
現実は、いかに貧しく、苦しくとも、未来に無限の希望と勝利を確信する力。五濁悪世の時代に、どこまでも清らかに、理想へと進みゆく息吹――その源泉こそが信仰なのだ。
■語句の解説