小説「新・人間革命」 5月 14日 勇気36

戸田城聖が「独房吟」として詠んだ、「学会の歌」の四番から七番の歌詞は、まさに、学会の骨格をなす、戸田の精神そのものであり、厳粛な内容であった。
 戸田は、この部分を歌うことを禁じた時期もあった。歌の本当の心がわからずして、軽々に歌うことを許さなかったのである。
 さらに、彼は、牢獄の中で、後に「同志の歌」(一番から三番)として歌われることになる詩も詠んでいる。
     
 一、我いま仏の 旨をうけ
   妙法流布の 大願を
   高くかかげて 独り立つ
   味方は少なし 敵多し
    
 そこには、獄中にあって、「われ地涌の菩薩なり」との悟達を得た戸田の、広布大願に生きんとする覚悟が刻印されている。
 この「同志の歌」の曲は、旧制高等学校の寮歌が原曲であり、この歌も、「学会の歌」も、曲が古いという印象はぬぐえなかった。
 そこで、山本伸一は、学会の精神と思想を端的に表現し、未来に歌い継がれていく、歌いやすい、新しい感覚の歌を作ろうと思っていたのである。
 さらに、伸一が、新しい歌を作り、同志を勇気づけようと考えたのは、学会をめぐる不穏な動きを、ひしひしと感じ取っていたからでもある。
この前年から、一部のマスコミなどによる、学会への攻撃が激しくなりつつあったのである。
 伸一は、近年、世界の平和のために、中国やソ連など、社会主義国を相次ぎ訪問し、国内にあっても、日本共産党の委員長らと対話してきた。
そうした彼の行動は、世界の注目を浴びるとともに、学会は、共産主義に接近していくのではないかという、警戒感を呼び起こしていったようだ。
 いわば、この学会攻撃の背景には、伸一の平和行動に対する誤解と偏見に基づく反発があった。それが、後に明らかになるのである。