小説「新・人間革命」 5月 22日 勇気43
集っていた音楽関係者の一人が答えた。
「五行詞を四行詞にすれば、確かに、作曲は、しやすくなると思います」
どこを削除するか、歌詞を読み返した。
削るとすれば、二行目だと思った。一番の歌詞の二行目は「同志の人びと 共に立て」、二番は「同志の歌を 胸はりて」、三番は「同志の人びと 共に見よ」である。
「残念だが、二行目を削ろう。この『同志の人びと』というところには、深い意義があるんだがね……。でも、仕方ないな」
伸一が、この言葉を使った背景には、若き日に読んだ、山本有三の戯曲『同志の人々』への共感があった。
薩摩藩としては、幕府の機嫌を損ねたくないため、この父子を、薩摩にかくまうことは避けたかった。
しかし、表立って処刑すれば、公家に義理が立たない。そこで、船の中で、仲間割れが起こって殺されたことにしたいというのだ。八人の藩士は動揺した。
最悪な事態、最大の窮地に立たされた時、何を考え、どう行動するか――そこに、人間の奥底の一念、本質が現れるといえよう。