小説「新・人間革命」 5月 26日 勇気46

新しいものを創造するには、時には、これまで作り上げてきたものへのこだわりを、躊躇なく捨てる勇気が必要な場合もある。
 山本伸一は、きっぱりとした口調で、皆に語った。
 「二行目を削るようにして、曲を考え直すことにしよう。一行目が、それぞれ、『君も立て 我も立つ』『君も征け 我も征く』『君も見よ 我も見る』だから、そこに二行目の『同志』という意味も含まれている。四行詞にして、再び挑戦だ!」
 また、曲の調整が始まった。
 ほどなく、出来上がった。
 曲に合わせて、皆で歌ってみた。
 「では、録音しよう」
 伸一が呼びかけると、学生部の音楽委員会の代表が言った。
 「先生、文化会館の地下の集会室に、今日の本部幹部会の開会前に合唱を披露した、富士学生合唱団のメンバーがおります」
 「それなら、合唱団に歌ってもらおう」
 その青年は、合唱団を呼びに行った。
 伸一は、さらに、歌詞を推敲し始めた。
 メンバーがそろい、ピアノを囲んで、練習が始まった。
 それを聴きながら、伸一は言った。
 「二番の『吹雪も恐れじ』のところだが、『吹雪に胸はり』に直そう。『恐れじ』は古い感じがするし、内心、びくびくしているように聞こえてもいけない。みんな師子なんだもの、胸を張った方がいいだろう」
 「はい!」
 適当なところで妥協し、よしとしていたのでは、最高のものは作れない。妥協なき、熾烈な挑戦の果てに、栄光はある。
 伸一は、合唱団に、力強く呼びかけた。
 「さあ、録音だ。明るく、伸び伸びと歌うんだよ。伴奏はピアノとマリンバがいいね」
 彼は、自ら合唱団のために、マイクの高さを調節した。
 若き師子たちの歌う「人間革命の歌」が、はつらつと場内に響いた。