小説「新・人間革命」 5月28日 勇気48

山本伸一は、二番の三行目の「地より涌きたる」にも筆を入れ、「地よりか涌きたる」とした。さらに、三番の二行目の「遙かな空の 晴れやかな」の「空」を「虹」に直した。
 「ここは、『地よりか』とした方が、力が入るんだよ。それと、『空』より『虹』とした方が、夢があるし、色彩が豊かになる」
 そして、彼は、声を出して、歌詞を読み返し、大きく頷いた。
 「よし。さあ、次は曲だ!」
 伸一は、ピアノの前で腕を組み、しばらく、じっと考えていた。
 曲のメリハリをきかせるには、どうすればよいか……
 声を掛けることもためらわれる、真剣そのものといった顔である。
 一つ一つの事柄を、徹して完全無欠なものにしていく――それは、広宣流布戦人ともいうべき彼の哲学であった。
 蒲田支部での二月闘争においても、札幌の夏季指導でも、大阪の戦いでも、山口の開拓指導でも、計画を練りに練り、万全な準備をして臨んだ。
 会合一つとっても、焦点の定まらぬ、歓喜の爆発がない会合など、絶対に開かなかった。それでは、忙しいなか、集って来てくださった方々に、失礼であり、貴重な時間を奪うことにもなると考えたからだ。
 ゆえに、自分が話す内容について熟慮を重ねることはもとより、式次第や他の登壇者の原稿、会場の設営や照明にいたるまで、詳細にチェックし、打ち合わせも綿密に行い、常に最高のものをめざしてきた。
妥協は、敗因の温床であるからだ。
 参加者の心を一新させ、大歓喜と闘魂を燃え上がらせることができるか!
 彼は、必死であった。一回の会合、一回の打ち合わせ、一軒の家庭指導を、すべて最高のものにしてみせるぞと、全力を尽くした。それがあってこそ、勝利があるからだ。
 おざなりの行動で、その場を取り繕うことはできても、待っているのは敗北である。