小説「新・人間革命」 2010年 6月5日 敢闘3

山本伸一は、さらに、「生老病死」のなかの、「老」について語っていった。
 「人間は、誰でも老いていく。人生は、あっという間です。過去がいかに幸せであっても、老いて、晩年が不幸であれば、わびしい人生といわざるを得ない。
 その人生を幸福に生き、全うしていくための、堅固な土台をつくるのが、女子部の時代なんです。
若い時代に、懸命に信心に励み、将来、何があっても負けない、強い生命を培い、福運を積んでいくことが大事です。
 皆さんには、年老いて、もっと、題目をあげておけばよかった”“真面目に信心に励んでいればよかった”“もっと、社会に貢献しておけばよかったと、後になって悔いるような人生を送ってもらいたくはない」
 そして、「死」の問題に移っていった。
 「また、いかなる人間も、死を回避することはできない。
文豪ユゴーは、『人間はみんな、いつ刑が執行されるかわからない、猶予づきの死刑囚なのだ』(注)と記している。
 トインビー博士も、対談した折に、しみじみと、こう語っていました。
 ――人間は、皆、死んでいく。生死という冷厳な事実を突き付けられる。
しかし、社交界で遊んだり、それ以外のことを考えたりして、その事実を直視せずに、ごまかそうとしている。だから、私は、日本の仏法指導者であるあなたと、仏法を語り合いたかった。教えてもらいたかった。
 死という問題の根本的な解決がなければ、正しい人生観、価値観の確立もないし、本当の意味の、人生の幸福もありません」
 ゆえに日蓮大聖人は、「先臨終の事を習うて後に他事を習うべし」(御書一四〇四ページ)と仰せなのである。
 伸一は力説した。
 「その死の問題を、根本的に解決したのが、日蓮大聖人の仏法です。広宣流布に生き抜くならば、この世で崩れざる幸福境涯を開くだけでなく、三世永遠に、歓喜の生命の大道を歩み抜いていくことができるんです」
 
■引用文献
 注 ユゴー著『死刑囚最後の日』斎藤正直訳、潮出版社