小説「新・人間革命」 6月16日 敢闘11
戸田城聖を囲み、『永遠の都』を学びながら、山本伸一は、ひとり思った。
“先生の叫びを、永遠に残したい。いつかレコードのようなかたちで!”
一九五九年(昭和三十四年)の元旦――。
戸田が世を去って、初めて迎えた新春である。信濃町の学会本部に集った弟子の代表で、戸田の講義を収めた録音テープを聴いた。
提案したのは、伸一であった。歳月は、精神を風化させる。学会にあっては、それは、広宣流布の破綻を意味する。彼は、戸田の叫びが、薄らいでいくことを憂えたのだ。
力強い、恩師の声が流れると、場の空気は一変した。戸田と対座するかのように、誰もが襟を正し、感涙に眼を潤ませ、敢闘を誓った。
「師は、人々の中に眠っている偉大な力を爆発させる」(注)とは、インドのガンジー記念館の館長を務めたラダクリシュナン博士の洞察である。
ほどなく、伸一は、師の「声」をレコードにして、永遠に残す事業に着手し、戸田の講義、講演等のテープ百六十余本を集めた。
戸田の師子吼を聴いた同志は、弟子の誓いを新たにし、大前進を開始したのだ。
また、伸一は、戸田の映像も、動画として残しておかねばならないと考えていた。
一九五五年(昭和三十年)の年の瀬であった。戸田は、伸一に言った。
「聖教新聞のカメラマンが、学会の主要行事を、映画フィルムで撮っておきたいと言っている。
しかし、機材も、フィルムも、かなり高額だ。いろいろと支出も多いだけに、そうしたことに金をかけるべきかどうか、考えているんだよ」
すると、伸一は、即座に答えた。
「先生、それは、後世に先生の真実の姿と精神を伝えていくうえで、最優先すべきことであると思います。私からもお願いします」