小説「新・人間革命」 7月6日 敢闘28

山本伸一は、埼玉のメンバーに言った。
 「文化祭の練習も、総仕上げの段階に入ったね。成功させるには、最後が大事だよ」
 「はい。みんな、これからが勝負だ! 最高の文化祭にしようと、燃えています」
 「そうか、すごいね。期待しているよ。
 一日一日、今日こそが本番だ! これまでで、最高のものをつくりあげるぞ!との心で、挑戦していくことだよ。
 演技の練習にしても、今日は、昨日をしのぐことだ。さらに、明日は、今日をしのがなければならない。その敢闘があってこそ、最高のものができる。
 文化祭は、出演者も、役員も、全員が主役だ。みんなが一つ一つの事柄を疎かにせず、精魂を注ぎ込むんだ。一人ひとりが自分の課題を果たし抜き、猛然と突き進んでいくならば、大成功は間違いない。
成否は、最後の勢いで決まるよ」
 中国の文豪・魯迅は述べている。
 ――最後の勝利は、「どこまでも進撃する人々の数にある」(注)と。
 伸一は、生い茂った緑の木々を仰ぎながら、埼玉での思い出を語り始めた。
 「埼玉には、私の青年時代の、魂が刻印されている。それは、まさに疾風怒濤の日々だった。そのなかで私は、呻吟しながら、創価学会の新しい時代の幕を開いたんだ……」
 一九五〇年(昭和二十五年)八月、戸田城聖の経営する信用組合が業務停止となった。伸一は、事業の新たな活路を開くために、幾たびか、埼玉の大宮方面に足を運んだのだ。
 戸田への囂々たる非難が渦巻くなか、伸一は、難局を打開しようと、粘り強く交渉にあたった。けんもほろろの応対や、罵声を浴びせられることもあった。しかし、誠実に、勇気をもって、説得の対話を重ねた。
 現代にあって、正しく広宣流布の指揮を執れる方は、戸田先生しかいない。その先生に会長になっていただくために、先生をお守りするのだ。それが、私の使命だ
 烈風に向かい、敢然と弟子は進んだ。