小説「新・人間革命」 7月19日 敢闘39
富島トシは、山本伸一の言葉に、目を潤ませながら、何度も、何度も、頷いた。
伸一は言った。
「さあ、また、新しい出発をしましょう。いつまでも、お元気でいてくださいよ」
富島は、笑顔で答えた。
「はい。私は六十五歳になりますが、これからが本当の戦いだと思っています。島の人たちを、一人残らず幸せにするまで、頑張り続けます。
実は、私の家には、先生のお部屋があるんですよ。だから、いつも、先生と一緒なんです。何があっても、その部屋に入ると、先生とお話ししている気持ちになるんです」
「ありがとう。嬉しいです。では、今日を記念して、一緒に写真を撮りましょう」
二人は、並んでカメラに納まった。
彼女は、笑顔皺を浮かべて言った。
「はげー(あらまあ)、先生と写真を撮れるなんて、夢のようです。嬉しくって……」
「私もです。今日の日は、永遠に忘れません。喜界島の皆さんに、よろしくお伝えください。お題目を送り続けています」
そして、伸一は、色紙に歌を認めた。
遙かなる 喜界の島の 友偲び 今日も祈らん 諸天も護れと
色紙を手にした富島の目に、また、涙があふれた。
伸一は、一人の人の励ましに、最大の力を注いだ。一人が立ち上がり、一人が燃えてこそ、広宣流布の幸の火は、燃え広がっていくからだ。
「集団」や「類」、あるいは「数」といった、抽象化された人間を対象に物事を考えれば、本当の人間を見失ってしまう。どこまでも一個の人間と向き合うことこそ、人間主義の基本であるといってよい。