小説「新・人間革命」 7月23日 敢闘43

山本伸一は、目を輝かせて、再現された「青葉荘」の部屋に置かれた、一つ一つの調度品を見た。そして、本棚に視線を注ぐと、声をあげた。
 「確かに、これは、みんな読んだ本だよ。よく集めてきたな……」
 それから、青春時代を思い起こしながら、峯子に語っていった。
 「当時は、苦難が嵐のように襲ってくる毎日だった。戸田先生の事業は行き詰まり、何カ月も給料はもらえなかった。
結核は悪化し、毎日、発熱が続いていた。真冬になっても、オーバーもない。そのなかで、へとへとになるまで働いたよ。
 今日、倒れるかもしれない。しかし、負けるわけにはいかないのだ!と自分に言い聞かせ、阿修羅のように戦った。先生をお守りするのは、私しかいなかったからね。
 靴下に穴が開いても、新しいものを買うお金がないから、自分で繕ったんだよ。なかなかうまくいかなくて、縫ったところが、波のようにうねってしまうんだ」
 「大変でしたね。そのころの一つ一つの苦闘が、福運となり、功徳となって、今、すべて花開いたんですね」
 峯子が答えると、伸一は頷いた。
 「そうなんだよ。苦労したことは、すべて最高の思い出になっている。今では、それが私の誇らかな歴史だ。無上の財産だ。広宣流布の大師匠のために尽くせたんだもの。
 泣くような思いで、必死になって戦わなければ、宿命の転換も、人間革命もできない。だから、仏法の目から見れば、苦闘ほど、ありがたいものはないんだよ」
 いつの間にか、伸一の周りには、青年たちが集まっていた。彼は、青年に語りかけた。
 「労苦がなければ、歓喜も、人格の完成もないよ。みんなも、広宣流布のために、苦労して、苦労し抜いて、自分を磨くんだよ」
 アイルランドの詩人イエーツは記した。
 「歓び――それは、苦労し、困難を乗り越えて、勝利を知る魂から生まれる」(注)
 
引用文献: 注 イエーツ著『自叙伝』マクミラン