No.1 文化は民衆の声 ㊤2010-8-4

鼎《てい》談者
創価学会インタナショナル 池田大作会長
ジャズサックス奏者 ウェイン・ショーター
ジャズピアニスト ハービー・ハンコック
 
世界的ジャズピアニスト。作曲家。1940年生まれ。7歳からピアノを始め、11歳の時、シカゴ交響楽団と共演。 62年、「テイキン・オフ」でソロビュー。その中の1曲「ウォーターメロン・マン」が大ヒット。 63年から68年までマイルス・デイビスのバンドに参加。73年「ヘッド・ハンターズ」を結成。ジャズ・ファンクとダンス・ミュージックを融合させ、ジャズの新たな地平を切り開く。グラミー賞の受賞は12回。 2008年には、ジャズで43年ぶりとなる「最優秀アルバム賞」に輝く。 02年、03年の「東京JAZZ」では音楽監督を務めた。 1972年入会。SGI芸術部長。支部長。
 
ジャズ史に輝くサックス奏者。作曲家。 1933年生まれ。高校時代にクラリネット、そしてサックスを始める。アート・ブレイキーのバンドに在籍。 59年へ「イントロデューシング・ウェイン・ショーター」でソロデビュー。64年、マイルス・デイビスのバンドに参加。中心的なメンバーとしてマイルスの黄金時代を支えた。 69年、マイルスのバンドでの「ビッヂェズ・ブリュー」、ソロでの「スーパー・ノヴァ」で卓越した音楽性を示す。 70年、「ウェザー・リポート」を結成し、フュージョン界をリードした。グラミー賞の受賞は9回。 73年入会。 SGI芸術部長。副支部長。
 
芸術は価値を創造する戦い
 
池田SGI会長 対話は、心と心が奏でる音楽です。世界最高峰の音楽家であるハービー・ハンコックさん、ウェイン・ショーターさんとの対話の「共演」を、私は心から楽しみにしておりました。
 お2人は芸術界の至宝です。音楽界の世界的な最高栄誉であるグラミー賞も、繰り返し受賞されています。
 また、世界を舞台にした音楽活動とともに、平和のために尽力し続けておられます。2人の信念の行動は、アメリカのみならず、世界192カ国・地域のSGIメンバーの誇りです。
ハービー・ハンコック ありがとうございます! この鼎談に参加できて、私は本当に幸せです。
 ショーターさんと私が、全身全霊をかけ、世界で創造してきた音楽、そして実践してきた仏法についての対話の機会をいただけたことは、私たち二人にとって大変光栄で、格別に意義深いことです。
ウェイン・ショーター 私は今、池田先生が新たな対話を世界へ開こうとされていることを感じます。このような形で新時代の鼎談を進めてくださる勇気は、多くの人々の目を覚ますでしょう。
        ?
池田 ジャズはアメリカで生まれ、アメリカが誇る音楽文化です。現在、対話を重ねているデューイ協会のガリソン前会長が、アメリカの最も大切な精神の宝を、四つ挙げておられた。デューイの教育哲学、エマソンアメリカ・ルネサンスの文学、キングの人権闘争、そして市民の大地から生まれたジャズ音楽です。
 このうちデューイ、エマソン、キングについては、すでに第一人者の方々と語り合つてきました。いよいよジャズです。この鼎談を、私はアメリカの皆さんとの50年来の交流の一つの集大成とも感じています。
 いまや、世界中で妙法の芸術家が活躍する時代になりました。SGIの芸術部長である2人との対話から、仏法を根底とする大文化運動の明るい未来を展望していきたい。
 また、広宣流布の最重要の拠点である「地区」「支部」を舞台に、地道に誠実に活動を続けてこられた2人との語らいは、多くの最前線の同志に大いなる励ましを贈るに違いありません。
 まず、「ジャズ」にあまり馴染みのない日本の読者もいるでしょうから、今回はジャズ誕生の歴史などにも触れていただきたい。私も若々しい青春の生命で、大いにジャズを学びたい。お2人から「特別講義」を受ける思いで臨みたいと思います。
        ?
対話こそ心と心が奏でる音楽
 
SGI会長 人生は試練の挑戦に即興の応戦
ハンコック氏 文化の力は苦悩を希望に変える
ショーター氏 ジャズは人間と人間の真の触発
 
ハンコック 私たちこそ、先生から「特別講義」を受けさせていただく立場です。私たちは、これまで何度も池田先生にお会いすることができ、スピーチを伺う機会にも恵まれてきました。そこで、いつも痛感するのは、先生の当意即妙の「対話」は、なんとジャズの精神と合致しているのだろうということです。
ショーター 私は15歳の時、ジャズの即興演奏をラジオで初めて聴きました。ジャズマンたちは、リスク(危険)を覚悟で一瞬一瞬、その場で対応しながら、同時に完璧さを目指しているように感じられました。
 私も、初期のころ、同じように演奏しようと努力しましたが、いわゆる「ビバップ」や「モダン・ジャズ」と呼ばれるジャズの革新者たちがするような方法で「即興演奏」の準備をすることは、所詮、無理であることが分かりました。準備することそれ自体が、隠れた動機や巧みな操作から解き放たれた創造的表現に忠実であろうとする音楽家にとっては、本質的に、相いれないものであることに気づいたのです。
池田 重みのある言葉です。即興──すなわち一瞬の出あいから自在に価値を創造していく力は、真剣勝負の一念から生まれます。仏法では「命已に一念にすぎざれば仏は一念随喜の功徳と説き給へり」(御書466㌻)と説かれます。
 今この時を逃さず、歓喜あふれる智慧と力を発揮するのです。
 とともに、冴えわたる即興の力を鍛えるためには、人知れぬ基本の研鑚を重ねなければならない。私も対話の際は、相手のことをよく勉強して臨みます。それが礼儀であり、誠意と思うからです。
 そのうえで、「臨機応変」です。対話も演奏も、いざ始まったら、瞬間瞬間が勝負です。自在の「随縁真如の智」を働かせて、最大の価値を創造していく。ここに即興の妙があります。
 さらにまた、何より大切なのは、一国の大統領であっても、庶民であっても、いかなる国の人であっても、「同じ人間同士、分かり合えないはずはない」という信頼、共感です。その心で、平和と友好の橋を架けるために、私は「人間」に会いに行きました。「人間」と語り合いました。
 1974年、初めての中国訪問の折、可愛らしい1人の少女が私に尋ねました。「おじさんは、何をしに中国に来たのですか?」。私は答えました。「あなたに会いに来たのです」と。
ハンコック 池田先生の入魂の「対話」と、ジャズの演奏は相通ずるところがあるのです。
 ジャズは「対話」を基本にすえた音楽です。われわれが大切にするのは、まさにこの点です。ジャズは、きわめて精神的な音楽なのです。
 演奏中に即興で生まれる「対話」は、場当たり的でも、軽薄でもありません。ジャズは、陽気な側面がありながら、真剣さのある音楽です。生きる歓びを讃える、まっすぐな表現法なのです。人間の感情の奥底からの叫び──それがジャズです。
ショーター 1961年ごろのことですが、私が出演していたニューヨークの劇場で出会った、1人の老人の言葉が印象に残っています。「わしゃあ、イギリスの女王陛下の前でダンスを踊ったこともある。だが今じゃあ、おまえら若い衆が演奏する、あの音楽(ジャズ)に聴き入っとるよ。わしにゃあよく分からんが、聴いていて気持ちがいいのは確かじゃな」というものでした。
 「聴いていて気持ちがいい」──これはジャズの本質を突く言葉です。
 ジャズの本質は、楽器との「対話」にあります。そして、楽器抜きの「対話」もあります。欺瞞、見せかけ、ごまかし、下心など、すべて剥ぎ取って、自己を全面的にさらけ出し、心と心、本質と本質でぶつかり合う──それがジャズなのです。
ハンコック ジャズはアフリカから奴隷として連れてこられた人々に起源をもち、ブルースや黒人霊歌、ゴスペルなどを基盤にして発達してきた音楽です。アフリカの文化的な遺産も色濃く感じられますが、ジャズは特定の民族文化や民族精神をはるかに超越した、新しい表現法に立つ音楽です。
 その証拠に、ジャズファンは世界中にいます。アフリカやアメリカから、はるかに離れた日本にも、熱烈なジャズファンが大勢おられます。ジャズは、アフリカ系アメリカ人から、世界の人々への贈り物なのです。抑圧の苦悩の中から生まれましたが、今では、苦悩を表現することに限定されず、むしろ、それをはるかに超越した音楽として、広まっています。
 そして、ジャズのもう一つの特徴は、開放性です。他の文化の影響を熱心に取り入れ、逆に他の文化に強い影響を与えています。これらの特徴は、人間精神の核心をなすものです。