小説「新・人間革命」 厳護 3 12月9日

山本伸一は、「牙城会」の二人の青年と共に、聖教新聞社に向かいながら、点検作業の基本を語っていった。
 「建物の周囲には、何も置かないことが鉄則だ。特に、新聞紙や雑誌の束などの燃えやすい物は、絶対に置いてはならない。そこに放火されたら、大変なことになるからね」
 伸一は、途中、二階建ての学会の建物に立ち寄ると、館内の収納スペースを点検した。
 「こうした、普段は、あまり開けないところこそ、注意して見ることだ。そのチェックのポイントは、鍵はかかっているのか、不審物がないか、換気扇などが回りっ放しになっていないかなどだよ。
 不審物が、すぐに発見できるためには、整理整頓されていることが大事だ。荷物が散乱していたり、何が入っているかわからない段ボールなどが、無造作に置かれていると、不審物が紛れ込んでも見分けにくくなる。
それが危険なんだ。だから、整理整頓の仕方一つを見ても、使っている人の警戒心、責任感がわかるものなんだ」
 それから、伸一は、給湯室の火の始末や、電気の消し忘れはないかなどを、一つ一つ点検して回った。さらに、表の花壇では、木や草の根元まで懐中電灯を照らし、不審物などが隠されていないか、入念に調べた。
 「そこまでやるのかと思うかもしれないが、何かあってからでは遅い。小さなことを見逃さない目が、大事故を防ぐんだよ。
 事故を防ぐには、みんなで、よく検討して、細かい点検の基本事項を決め、それを徹底して行っていくことだ。電車の車掌さんたちも、一つ一つ指を差し、『よし』と言って確認をしているだろ。
あの繰り返しのなかに、乗客の安全確保の基本があるからだ。
 そして、基本を定めたら、いい加減にこなすのではなく、魂を込めて励行することだ。形式的になり、注意力が散漫になるのは、油断なんだ。実は、これが怖いんだ」
 ドイツの劇作家ブレヒトは言った。
 「惰性は危険である」(注)
 
■引用文献 注 ブレヒト著『転換の書――メ・ティ』石黒英男・内藤猛訳、績文堂出版