小説「新・人間革命」 灯台 13 5月4日

山本伸一が出席して行われた、東京社会部の勤行集会は、皆が職場の勝利者をめざす決意を、一段と固め合う集いとなった。
 ある大手デパートの美術品部門で働く女子部員の代田裕子は、〝職場で勝利の実証を示し、山本先生に報告できる自分になろう〟と、心に誓った。
 彼女は、入社以来、仕事と信心についての、伸一の指導を糧に、直面する困難を、一つ一つ乗り越えてきた。
 代田が入社して担当したのは、美術サロンに来る人を応対する仕事であった。一日中、立ち続け、にこやかに迎えなければならない。
 最初は、この会社に就職できたこと自体が功徳であると感じ、喜びがあった。
しかし、日々、何時間も、きちんと背筋を伸ばして、立っていなければならない仕事が、次第に苦痛に感じられるようになっていった。
 その時、学会の先輩から、「職場の第一人者に」という、伸一の指導を聞かされた。
 〝ただ立っていることが仕事のような職場で、第一人者になるというのは、具体的にどうすることなのだろうか……〟
 考え、祈った。あることに気づいた。
 〝立つことは、誰にでもできる。しかし、私は、立つことが仕事だ。それなら、プロの立ち方をする必要がある。
一番、美しく、お客様に好感をもたれる立ち方があるはずだ〟
 代田は、最高の立ち方を考え、工夫を重ねていった。
そのなかで、すべてにおいて、何かに寄りかかろうとするのではなく、自分の足で、きちんと立とうとすることが、人生の基本であることに気づいた。
 それが、一つ一つの物事への、自分の取り組み方を振り返る契機となっていった。
 その後、美術・工芸品の管理の仕事を担当した。
高価な美術・工芸品を、傷がつかないように、汚れないように、ただ、ひたすら磨くことが、彼女に与えられた業務だった。
 〝この仕事にも、きっと、何か大きな意味があるはずだ〟
 代田は、そう確信し、唱題を重ねた。