小説「新・人間革命」 灯台 15 5月7日

人は、往々にして、自分を見ている周囲の視線に気づかぬものだ。また、手抜きをしても、要領よく立ち回れば、うまくいくかのように思ってしまう人もいる。
だが、それは、浅はか極まりない考えである。信頼という、人間として、社会人として、最も大切な宝を自ら捨て去ってしまうことになるからだ。
 東京社会部の勤行集会から二年後の一九七九年(昭和五十四年)、代田裕子は、〝ショップマスター〟に抜擢された。
 クラシックな調度品やアクセサリーなどを扱う部門の、男女七人のリーダーである。
しかも、販売だけでなく、仕入れ、企画、宣伝なども、すべてを担当することになったのである。
 彼女は、そこで実績を挙げ、さらに、大事なポジションを任されていくことになる。
 社会部員の活躍は目覚ましく、満天の星のごとく、人材が育っていた。
 東京の半導体メーカーに勤める中山勇は、経理部門の中核として重要な責任を担っていた。彼は、高校の普通科出身で、経理の経験は全くなかった。
六四年(同三十九年)にこの会社に入社し、配属になったのは、工場での材料製造だった。
 時代は、次第に高学歴化しつつあった。どうすれば、自分が職場で力を発揮することができるのか――彼は悩んだ。
 男子部の第一線で活動に励む中山は、山本伸一が青年時代、戸田城聖の事業が窮地に陥った時も、青年部の室長として多忙極まりない時も、徹して読書に励み、勉強し抜いたことを、学会の先輩から聞かされていた。
 〝ぼくは、まだ若い。勝負は、これからだ。山本先生のように、懸命に勉強しよう〟
 そして、将来、会社を支えていくには、経済の動向を見極める目をもつとともに、経理の実務にも精通することが大事だと考え、経理の専門学校の夜学に通い始めた。
 未来を担おうとするなら、未来を見すえ、不断の努力を重ねていくことだ。