小説「新・人間革命」 灯台 18 5月11日

山本伸一が出席しての社会部勤行集会は、社会部員の自覚を一段と深めた。職場ごとのグループ座談会にも力がこもった。また、彼の指導は、各企業等で働く学会員に、大きな勇気の光源となった。
 大路直行は、大手自動車販売会社の、都心にある営業所に勤める青年であった。
入社二年を迎えようとしていたが、売り上げは営業所で最下位で、大きな壁に突き当たっていた。上司からは、毎日のように叱咤され、日々、悶々としていた。
 〝転職した方がいいのかもしれない……〟
 そう思い悩んでいた時、彼は、聖教新聞で、社会部勤行集会での山本会長の指導を目にした。〝自分も職場の勝利者にならなければ……〟と思い、男子部の先輩に指導を求めた。
先輩は、自動車のセールスマンをしている、同じ区内に住む壮年部の工藤重男を紹介してくれた。
 「工藤さんは、四十代半ばで、大ブロック長(現在の地区部長)をしている。営業成績は常に全社でトップクラスのセールスマンだよ。仕事上のことは、相談してみるといい」
 数日後、大路は、近くの会館に工藤を訪ねた。工藤は、どちらかといえば、身なりも地味で、素朴な印象を受けた。そして、温かさと誠実さが感じられる人であった。
 大路は、自分の悩みを打ち明けた。
 「そうですか。今が難所ですね。でも、焦って、自分を追い込んじゃだめですよ。車を売ることは、もちろん大事ですが、売れなくて怒られても、めげないことの方が、もっと大事なんです。これからなんですから。
 営業成績が好調で、意気揚々としている社員は、たくさんいます。しかし、売れなければ、たいてい、くよくよして、〝辞めようか〟などと考えてしまう。
だから、最悪な状況でも落ち込まずに、元気でいる社員の方が、すばらしいのではないかと思っているんです」
 こう言って工藤は、ニコッと笑った。
 「実はね、成績不振の時、私は、そう自分に言い聞かせてきたんですよ」