小説「新・人間革命」 灯台 19 5月12日

工藤重男は、自分の体験をもとに、セールスの基本姿勢について語った。
 「私は、セールスの基本は、一人の人間として、お客様の信頼を勝ち取ることだと思っているんです。そのために、〝このお客様のために何ができるか。どんな力になれるのか〟を、いつも考えるようにしています。
 たとえば、車を売ったら、売りっ放しにするのではなく、その後も、必ず訪問し、車の調子をはじめ、何か不都合なことはないかなど、伺うようにしてきました。
 足しげく訪問するうちに、お客様は、次第に、さまざまな相談をしてくださるようになります。『家を改修したいけど、いい業者はいないか』とか、『糖尿病の名医を紹介してほしい』とか、いろいろです。
 私は、この時とばかりに、精いっぱい、お世話をさせていただきます。
 そうしたなかで、私を信頼し、車を買い替える時は、必ず声をかけてくださる方が、かなりおります。また、新しいお客様も紹介してくださいます。結局、お客様に助けられてきたというのが実感なんですよ」
 それから、工藤は、営業に当たっては、勇気と粘り強さが大事であることを訴えた。
 「まず必要なのは、どんなところでも、ぶつかっていこうという勇気ですね。それがないと、新規開拓はできず、やがて、行き詰まってしまいます。
また、最初は、けんもほろろな応対をされることもあります。しかし、それでもあきらめずに、二度、三度と、顔を出し、話をしていくことです。粘りです。断られてからが戦いなんです。
 私は、仕事は、足で稼ぐものだと思っています。成績がなかなか伸びずにいた時、こう決意したんです。
 〝自分には、卓越した能力なんてない。それなら、努力しかないじゃないか。訪問軒数にしても、人が八十軒回ったら、私は百軒回ろう。人が百軒回ったら百五十軒回ろう。そして、ただ、ただ、誠実に応対していこう〟
 あえて言えば、これが私の指針なんです」