小説「新・人間革命」 灯台 20 5月13日

大路直行は、工藤重男の話を聞いて、仕事に対する自分の甘さを痛感した。考えてみれば、営業で一日に回る訪問軒数も、たいてい五、六十軒で終わっている。
 また、訪問して、すげなく断られたりすれば、脈はないものと考え、二度と行こうとはしなかった。大路は〝自分は、挑戦せずして負けていたのだ〟と思った。
 工藤は、大路の顔に視線を注いで言った。
 「大路さん、少し疲れていますね。山本先生は、社会で活躍するには、健康、生命力が大切であると指導されていますよ。
 断られてもめげずに、もう一軒、もう一軒と挑戦していくには、生命力が必要です。
 また、こちらが元気で、はつらつとしていなければ、商品に対して、お客様に夢を感じていただくことはできません。
私は、セールスというのは『生命と生命の共鳴』によって成り立つものであると思っています。
 ですから、強い生命力を涌現させるために、何があっても、『題目第一』に徹しているんです。
私は、特に、朝の唱題に勝負をかけています。〝今日も、必ず勝たせてください。いや、勝ちます!〟と、真剣に祈るところから一日が始まります。
 実は、私の仕事への取り組み方は、全部、学会活動のなかで教わったものなんですよ。学会の指導通りにやれば、皆、必ず職場の勝利者になれますよ」
 大路は、自分に何が欠けていたのかが、痛いほどよくわかった。彼は奮起した。自分も「題目第一」「努力第一」でいこうと決めた。
 この月、大路は、車二台を売り上げた。翌月は五台、翌々月は八台と、不振を脱し、年末には、実績が評価され、職場で表彰されるまでになったのである。
 社会部の多くのメンバーが課題としていたのが、仕事と学会活動の両立であった。
 夜間の勤務で、会合等への参加が難しい職種もあった。また、職場での責任が重くなればなるほど、時間的な制約も多くなるのが常である。