小説「新・人間革命」 灯台 27 5月21日

 山本伸一の心に呼応するかのように、農村部のメンバーは、農村の活性化が、新しい時代を開く力になると自覚し、さまざまな活動を積極的に推進していった。
 一九七四年(昭和四十九年)二月には、茨城県の水戸会館(当時)で、初の「農業講座」を開催した。
これは、農業経営に関する、幅広い知識を身につけるとともに、農村部のメンバー同士が、信心の連帯を深めるために実施されたものであった。
 土壌の研究に取り組んできた学術部員らの講演、質疑応答も行われた。専門家のアドバイスや、同じ農業従事者の苦心、工夫なども聞くことができ、参加者の収穫は大きかった。
この「農業講座」は、翌月には、鳥取県でも実施され、好評を博した。
 また、八月には、次代を担う農村青年を育成するために、神奈川県の三崎会館で、「全国農村青年講座」が行われている。
 全国から代表約五十人が集い、「世界の農業と日本農業」「農村地域における現状と対策」などについて学習するとともに、仏法者としての使命を確認し合ったのである。
 農村は、いずこも、後継者不足が深刻化していた。さらに、減反政策など、農政のひずみが、農家を疲弊させ切っていた。
 状況にのまれ、流されていくのか。状況に立ち向かい、改革していくのか――それは、常に、人間に突き付けられている課題である。
 しかし、改革は至難である。本当の信念と強靱な意志力が求められるからだ。それを引き出すための力が、信仰なのである。
 「人間のなすあらゆる偉大な精神的進歩というものはまず信仰にもとづくものだ」(注)とは、スイスの哲学者ヒルティの洞察である。
 「全国農村青年講座」に参加したメンバーは、誓い合った。
 「日本の農業は、八方ふさがりといってよい。しかし、誰かが、それを打開していかなければ、農業の未来も、日本の未来もない。その使命を担っているのが、私たち農村部の青年ではないか。出発だ! 前進だ!」
 
■引用文献: 注 「幸福論Ⅱ」(『ヒルティ著作集2』所収)斎藤栄治訳、白水社