小説「新・人間革命」 灯台 30 5月25日

山本伸一は、第二に、食糧を輸入に依存しておきながら、減反政策を取り、農業人口を減らしてきた農政の在り方を改善し、食料自給率を高めていくべきであると訴えた。
 工業重点主義によって得た金の力にものをいわせ、他国が得るべき食糧を奪っていると言われるような生き方は、改めるべきであろう。
また、このまま日本が、なんの方策もなく、一切の輸入穀物が途絶えるような事態になれば、やがては、発展途上国以上の、飢餓の苦しみに陥ることになろう。
 つまり、日本は、世界のためにも、自国のためにも、時代を先取りして、人類に貢献する道を、正々堂々と歩んでいくべき必要があると、伸一は、痛感していたのである。
 第三に、「民衆も、食糧問題を他国のこととして傍観視していてはならない。私たちとしても、仏法者の良心のうえから、なんらかの手を差し伸べたい」と述べた。
そして、「私は、その具体的検討及び実施を、青年の諸君に託したいと思いますが、諸君、どうだろうか!」と呼びかけたのである。
 集った青年たちの、賛同の大拍手が場内に轟いた。青年の決起があってこそ、運動の結実はある。すべての命運は青年の手にある。
 さらに伸一は、世界食糧会議でも提案された「世界食糧銀行」に触れた。
これは、世界の食糧の安全保障、配分構想のセンターとして、具体的施策を即座に実施していく機関である。その構想の基盤とすべき、理念、思想について、彼は明言したのである。
 「それは、援助の見返りを求めるのではなく、あらゆる国の、あらゆる人びとの生存の権利を回復するというものであり、あえて言えば、人類の幸せと未来の存続に賭けるという『抜苦与楽』(苦を抜き楽を与える)の慈悲の理念であります」
 そして、こう力説したのだ。
 「今、必要とされるのは、グローバルな見地に立つこととともに、国家エゴイズムを捨てて、人類の生存という一点に協力体制をしいていくことに尽きるのであります」