小説「新・人間革命」 灯台 38 6月3日

駐車場の建設に立ち上がった、学会員の婦人は思った。
〝ここが勝負だ! 今こそ、みんなの心の扉を開こう。そして、誰もが愛し、誇れる最高の団地にするんだ!〟
彼女は、懸命に訴えた。
「路上駐車だらけの、今の状態では、消防車などの緊急自動車も入って来られません。
もし、火災が発生したら、大変なことになります。駐車場をつくろうというのは、車を持っている人のためだけではありません」
大切な生命を守ることができる団地にしたいとの、強い思いがあった。
有志と共に、団地の人びとと地道な対話を続け、各機関との折衝も、何回となく重ねた。
その粘り強い行動によって、多くの住民が賛同していった。そして、二年間を費やし、遂に駐車場が出来上がったのである。
文豪ゲーテは、「現実は、万事、精神的な粘りにかかっている」(注)と記している。
駐車場の完成がテレビで報じられた日、団地では、大がかりな消防訓練が行われた。これまでは、路上駐車する車が道をふさぎ、一度も実施できずにいたのである。
社会の建設といっても、最も身近な、近隣との関わりから始まるのだ。
山本伸一は、折々に、「学会員は、地域の幸福責任者です」と訴えてきた。この指導は、同志の胸中に深く根差し、社会貢献という使命の自覚を促してきたのである。
民衆は大地である。その民衆の生命が耕され、社会を創る主体者であるとの意識の沃野が開かれてこそ、地域の繁栄という実りもあるのだ。
学会員のなかには、かつては、社会の底辺で宿命に泣き、来る日も来る日も、ため息まじりに生きてきた人たちも少なくない。
その庶民が、決然と頭を上げて、あの地、この地で、社会建設の主役となって、表舞台に躍り出たのだ。
そこに、創価学会が成し遂げてきた民衆教育の、刮目すべき偉大な功績がある。