小説「新・人間革命」 灯台 44 6月10日

分断された人間関係の果てにあるのは、孤独の暗夜だ。それを転ずるのが団地部だ〟
山本伸一の期待は大きかった。
一九七六年(昭和五十一年)七月末の夜であった。
伸一が、打ち合わせのため、箱根の研修所を訪れると、千葉県団地部の婦人の代表が集い、研修会が行われていた。
彼は、できることなら、皆とゆっくり懇談したかったが、この日は、時間がなかった。
しかし、なんらかのかたちでメンバーを励まそうと思い、こう提案した。
「皆さんが、それぞれの地域にあって、一生懸命に活躍されていることは、よく知っております。
皆さん方のご苦労に対する、私のせめてもの御礼として、一緒に記念撮影をしましょう」
皆、大喜びであった。そして、屋外で、共にカメラに納まったのである。
どんなに多忙でも、人を励まそうという強い一念があれば、さまざまな工夫が生まれる。
伸一は、会合に出席しても、指導する時間があまり取れない時には、懸命に学会歌の指揮を執り、激励したこともあった。
全精魂を注いで、皆と万歳を三唱して、励ましたこともある。
また、記念撮影をして、共戦の誓いをとどめることもあれば、生命と生命を結ぶ思いで、一人ひとりと握手を交わすこともあった。
さらに、歌や句を詠んで贈ったり、激励の伝言を託すこともあった。
それは、〝今を逃したら、もう、励ます機会はないかもしれない。
最愛の同志を、あの人を、この人を、断じて励ますのだ!〟という、伸一の一念の発露であった。
心という泉が、必死さ、懸命さに満たされていれば、創意工夫の清冽なる水は、ほとばしり続ける。
広宣流布という幸の行進の原動力は、絶え間ない励ましなのだ。
中国の周恩来総理は、こう訴えた。
「人間はたえず前進しなければならない。みんなで互いに励ましあい、ともに進歩しなければならない」