小説「新・人間革命」 灯台 45 6月11日

一九七七年(昭和五十二年)二月十七日の夜、会長・山本伸一を迎えて、創価文化会館内の広宣会館で開催された、第一回「農村・団地部勤行集会」は、歓喜と求道の息吹に満ちあふれた出発の集いとなった。
全国から駆けつけた参加者は、伸一の指導を一言も聞き漏らすまいと、耳を澄ませ、瞳を輝かせ、一心に彼を見つめていた。
伸一は、参加者の日々の活動に対して、ねぎらいと感謝を述べたあと、一人ひとりに語りかけるように、懇談的に話を進めた。
「私が、会長に就任したその年の七月、千葉県の銚子で、青年部の人材育成機関の一つであった『水滸会』の、野外研修を開催いたしました。
その時、地元の千葉からも、隣県の茨城からも、多くの同志が来られており、私は、しばし、懇談させていただいた。
語らいのなかで、一人の方が、漁獲量が減少して困っていると言われた。
私は、『皆さんの一念で、国土世間も変えていくことができると教えているのが仏法です。根本はお題目です』と申し上げました。
大聖人は、『心の一法より国土世間も出来する事なり』(御書五六三㌻)と仰せだからです。
国土の違いも、わが一念から起こり、わが一念に国土も収まります。
心の力は偉大です。何があっても負けない、強い、強い信心の一念があれば、一切の環境を変えていくことができる。それが『三変土田』の法理です」
「三変土田」とは、法華経見宝塔品第十一で説かれた、娑婆世界等を仏国土へと変えていく変革の法理である。
「三変」とは、三度にわたって変えたことであり、「土田」とは、土地、場所を意味している。
見宝塔品では、七宝に飾られた巨大な宝塔が涌現する。
釈尊の説く法華経の教えが真実であることを証明するために、塔の中には多宝如来がいる。
しかし、宝塔の扉は固く閉ざされ、多宝如来は現れない。
出現の時には、釈尊分身の諸仏を来集させてほしいというのが、多宝如来のかねてからの願いであった。