小説「新・人間革命」 灯台 50 6月18日

東北出身の哲学者・阿部次郎は言った。「土地と農業とを忘れた文化が本質的に人間を幸福にする力があるかどうかは疑はしい」(注)
農村地域が、やがて、その重要性を再評価され、脚光を浴びる時代が必ず来る――それが、山本伸一の未来予測であり、確信であった。
伸一は、力を込めて訴えた。
「今後、社会の関心は、農村地域に集まっていかざるを得ない。
したがって、現代における農村の模範となるような、盤石な家庭を築き上げることができれば、そのご一家は、地域社会を照らす確固たる灯台となります。
そして、そのご一家との交流を通して、妙法の種は下ろされ、広宣流布の堅固な礎が築かれていきます。
ゆえに、私は、農村部の皆さんには、『地域の灯台たれ』『学会の灯台たれ』と申し上げておきたい。
また、農村には、地域のさまざまな伝統行事や風習もあるでしょう。私たちの信心の根本は、どこまでも御本尊です。
それ以外の事柄については、随方毘尼の原理に則り、社会を最大限に大切にして、智慧を働かせて、地域に友好と信頼を広げていってください。
そして、一人ひとりが、福運を満々とたたえて、雅量と包容力に富んだ自身を築き上げていっていただきたいのであります。
私どもは、決して、偏狭な生き方であってはならない。
信仰の原点を踏まえたうえで、寛大な振る舞いで、どうか魅力にあふれる農村のリーダーに成長していってください」
それから伸一は、農村部のメンバーに、親愛のまなざしを注ぎながら言った。
「私は、もし、可能ならば、長生きをして、農村部の皆様方のお宅に、一軒一軒おじゃまして、一緒に大根でも引き抜かせてもらいたいというのが、偽らざる心境なんです」
ワーッ」という歓声と、大拍手が起こった。
〝共に働こう! 共に汗を流そう! 共に苦労しよう! そして、共に喜び合おう!〟
それが、常に同志に向けられてきた、伸一の思いであった。そこに、魂の結合があり、創価の友愛と鉄の団結が生まれてきたのだ。