小説「新・人間革命」 灯台 57 6月27日

山梨県勝沼町から勤行集会に参加した果樹農家の坂守太郎は、ブドウ畑の一部を整備し、観光ブドウ狩り園を営んでいた。
観光客が足を運び、ブドウ狩りを体験してもらうことで、生産者と消費者の交流も生まれ、それがブドウの販売促進にもつながると考えたのである。
勤行集会で?地域の灯台?になろうと決意した坂守は、地域活性化の方法を、真剣に模索し始めた。
そして、果実の栽培と観光が一体化するなかで、勝沼の新たな道が開かれるとの確信を強くしたのである。
そのために、自分のブドウ狩り園を成功させ、モデルケースにしようと誓った。休憩所や売店、大駐車場もつくって、施設を充実させた。
また、人びとのブドウの好みも多様化していることを知ると、巨峰をはじめ、三十余種を収穫できるようにした。
さらに、お年寄りや障がいのある人も楽しめるように、車イスに座って手が届く高さのブドウ棚を用意した。
一方、高いところの好きな子どものために、ハシゴを使って収穫するブドウ棚も作った。インターネットのホームページも立ち上げ、ブドウの生育状況の情報発信や販売にも取り組んだ。
日々工夫であった。日々挑戦であった。
坂守のブドウ狩り園は好評を博し、地域発展の牽引力になっていったのである。
彼は、勝沼町観光協会の副会長や、地域の果実出荷組合の組合長なども歴任し、まさに?地域の灯台?となったのだ。
あきらめと無気力の闇に包まれた時代の閉塞を破るのは、人間の叡智と信念の光彩だ。
一人ひとりが、あの地、この地で、蘇生の光を送る灯台となって、社会の航路を照らし出すのだ。そこに、創価学会の使命がある。
「日常生活のなかでの信仰実践と、よりよい人間社会を建設していく努力を続けていくことこそ、本来の宗教の使命である」(注)とは、英国の宗教社会学ブライアン・ウィルソン博士の、宗教者への期待である。                  (第二十四巻終了)