小説「新・人間革命」 福光 4 2011年 9月5日

山本伸一は、同行の幹部から、「福島県は三月半ばでも寒い日が多い」と聞かされていたが、この日は、思いのほか、穏やかで暖かかった。
誰が用意してくれたのか、庭に置かれた鉢植えの桜もほころんでいた。
「福島に春が来たね」
伸一は、幹部たちにこう言うと、再び福島文化会館を見て、県長の榛葉則男に語った。
「立派な文化会館だ。福島城だね。まさに会津磐梯号の船出だよ。
大事なことは、この文化会館を使って、どう福島の広宣流布を進めていくかだ。会館の落成は、終わりではない。新しい大闘争のスタートだ。
さまざまな環境が整ってくると、人間は、ともすれば、それに慣れて、良くて当然と思い込んでしまう。
そして、草創期の苦労を忘れ、ちょっと厳しい状況に直面すると、文句を言ったり、怠惰になってしまいがちだ。
吹雪に向かって、胸を張って進む、苦闘の青春こそが、私たちの原点だよ。青年が安逸に慣れてしまうことが、最も怖い。
広宣流布は、永遠の闘争だ。日蓮大聖人は『然どもいまだこりず候』(御書一〇五六p)と師子吼され、迫害に次ぐ迫害をものともせずに、折伏の戦いを続けられた。
これこそが、大聖人の御心であり、学会精神だ。
同志の多くは、病や生活苦、家庭不和など、さまざまな悩みをかかえ、幸せになりたいと、藁にもすがる思いで信心をした。
それぞれが苦悩を克服し、崩れざる幸福境涯を築き上げていくには、自行化他にわたる信心の実践しかない。
大聖人は『我もいたし人をも教化候へ』(同一三六一p)と仰せだ。
自ら仏法を学び、懸命に唱題するとともに、徹して弘教し抜いていくことだ。折伏の炎を燃え上がらせていくことだよ。
学会は、皆、そうしてきたから、多くの同志が、大功徳を受け、幸福の実証を示し、福島創価学会も、東北創価学会も、大発展することができたんだよ」
伸一は、思いの丈をぶつけるように、一気に話し続けた。