小説「新・人間革命」 共戦 47 2012年 1月10日

五月二十一日、山本伸一は、朝から、揮毫の筆を執り続けていた。あの人も、この人も励ましておきたいと思うと、作業は、際限なく続いた。
妻の峯子は、伸一が揮毫した書籍や色紙を受け取っては、手際よく並べて、墨を乾かしていった。
この日の午後、彼は、四月に落成した徳山文化会館を訪問し、山口広布開拓二十周年を祝う記念勤行会に出席する予定であった。
作業が一段落し、急いで昼食を取り始めた時、地元の幹部が告げた。
「山口開拓指導の折、先生の話を聞いて入会した桃田ミツさんと、ご主人の吉太郎さんという高齢のご夫妻が、訪ねて来ております」
「お会いします。よく存じ上げています」
彼は箸を置くと、夫妻と会い、肩を抱きかかえるようにして会館の庭を歩いた。
「生命を結び合った共戦の同志を、私は、生涯、忘れません。私たちは、広宣流布の三世の旅路を、こうして、いつまでも一緒に歩いていくんです」
創価の師弟、創価の同志とは、広宣流布の久遠の契りに結ばれた仏子の結合である。ゆえに、その絆は、何よりも固く、強い。
伸一は、夫妻と記念のカメラにも納まり、固い握手を交わして見送った。彼らの目には、三世の広布旅を誓う、涙が光っていた。
「さあ、時間だね。出発しよう!」
夫妻を激励した伸一は、そのまま車で小郡駅に行き、新幹線で徳山駅に向かった。二十年ぶりの徳山訪問である。
午後一時半前、徳山文化会館に到着すると、十人ほどのメンバーが出迎えてくれた。皆、見覚えのある人たちであった。
「しばらくぶりだね!」
伸一が言うと、同行していた中国方面の責任者である副会長が、一人の壮年を紹介した。
「こちらが、大山寿郎さんです。山口開拓指導で、先生が徳山で泊まられ、拠点になった『ちとせ旅館』の息子さんです。
その時に、お母さんと一緒に入会しております」
「よく覚えています。学生さんだったね」