小説「新・人間革命」 共戦 51 2012年 1月14日

山本伸一が記念勤行会の会場に入ると、皆が大きな拍手で彼を迎えた。
最前列に、メガネの奥の目を潤ませ、盛んに拍手を送る、着物姿の年配の婦人がいた。
山口開拓指導で山本伸一から仏法の話を聞き、ほどなくして入会し、草創期の徳山で支部婦人部長として活躍してきた、山村年子であった。
一九五六年(昭和三十一年)十一月、彼女は、伸一が出席して行われた徳山の座談会に参加した。
もともと病弱で、長年、喘息にも苦しみ、さまざまな薬の副作用からか、顔のむくみが引かなかった。
こんにゃくの製造・販売業を営む夫の事業も不振で、彼女も金策に駆けずり回る毎日であった。
座談会で伸一は、山村に声をかけた。「どうぞ、前にいらしてください」
山村は、宗教自体、信じる気にはなれなかった。『どうせ、うさんくさい話をするんだろう。徹底して反論してやろう』と思いながら、前に進み出ていった。
「奥さん、何か、悩みをかかえていらっしゃるんじゃありませんか」
日々、悩みだらけである。それを見透かされたような気がして、しゃくに障った。「べつに、悩みなんかありませんよ!」
伸一は、笑顔を向けると、「なぜ、正しい信仰が必要か」「仏法とは何か」などを、諄々と語っていった。
山村は、内心、その話に納得した。しかし、同時に、「負けてなるものか!」という気持ちが、むくむくと頭をもたげてきた。
理性ではよいとわかっていても、感情的な反発が生じ、行動に移せないことがある。
しかし、その感情をコントロールし、勇気をもって、進歩、向上のための第一歩を踏みだすことから、幸福への歩みが始まるのだ。
伸一は、話し終えると、山村に言った。
「ご病気ではありませんか? 病を乗り越えていくには、御本尊に題目を唱え、生命力をつけていくことが最も大事です。信心をなさってみてはいかがですか!」