小説「新・人間革命」 薫風 6 2012年 2月3日

山本伸一の話を聞いて、安宅清元には、思い当たる節があった。本部幹部会が行われる
福岡県の男子部長である彼は、諸準備に多忙を極め、睡眠不足が続いていた。
また、前日も、当日も、十分な唱題の時間が取れぬまま、本部幹部会を迎えてしまったのだ。
司会で失態を演じてしまったあと、安宅は、深く反省した。
『ぼくは、忙しかったことは確かだ。しかし、必要な睡眠時間も、唱題の時間も本当に取れないほど、多忙だったのか……。
一つ一つを冷静に見ていくと、一生懸命に取り組んでいたつもりでも、いつの間にか惰性化し、だらだらと時間を費やしていた面があったように思う。
また、心のどこかに、先生を迎えての、広宣流布のための行事運営なんだから、すべて守られるだろうという、安易な気持ちがなかったか……』
いわば『油断』があったのだ。それが著しい睡眠不足、唱題の不足を生み、弱々しい生命力の司会となってしまったのだ。
結局は、創価学会の前進の活力源となる本部幹部会の司会を、軽視していたと言わざるを得ない。
伸一は、安宅を笑顔で包み込むように、話を続けた。
「また、司会をする際に大事なのは、『間合い』です。間髪を容れずに言葉を発しなければならない場合もあれば、一呼吸置くことが大事な場合もある。
そのタイミングを間違えてしまうと、会合の雰囲気を壊してしまうことになりかねない。
たとえば、『暑い方は、上着をお取りください』と言っておいて、みんなが背広を脱いでいる途中で、次の登壇者を紹介したらどうなるか。
拍手したくともできず、ざわざわしたなかで、次の人の話が始まることになる。
その場合は、脱ぎ終わるのを待って、さらに一呼吸置き、参加者の意識を整えてから、声を出すんです。
会合に限らず、演劇も、舞踊も、音楽も、『間』の取り方に、成否のカギがあるんです」