小説「新・人間革命」 薫風 7 2012年 2月4日

懇談会の参加者の目は、吸い寄せられるように、山本伸一を凝視していた。
司会の在り方について、これほど詳細に話を聞いたのは、皆、初めてであった。
伸一は、さらに、司会者に求められる要件について語っていった。
臨機応変な対応力をつけることも、司会者にとっては、極めて大事です。
会場の前の方はすいているのに、後ろの方は、ぎっしりと人で埋まり、廊下にまであふれている時には、タイミングを見計らって、前方に詰めてもらわなければなりません。
会合の開始から長時間たって、皆、腰が痛そうな時には、軽い体操をしてもらった方がいい場合もあります。
さらに、暑ければ、上着を脱いでもらうことも必要です」
また、会合によって、司会者の対応の仕方も異なってくる。
セミナーのように、多くの友人が集って行われる催しであれば、参加した方々の緊張を解きほぐし、ゆったりとした気持ちで話を聴けるような、話し方や気配りが大切になろう。 
「仏法では、『随縁真如の智』(御書七〇八p)を教えています。縁に随って顕現する真実にして常住の智慧が、衆生の一念に収まっているということです。
つまり、司会者は、この『随縁真如の智』を最大限に発揮していかなければならない。
それには、『自分が司会を担当する会合は、必ず大成功させてみせる』という、強い決意のこもった唱題が不可欠なんです。
学会の会合は、広宣流布のためのものであり、それは、現代における法華経の会座ともいえます。
したがって、その司会をするということは、御書に『声仏事を為す』(同)とあるように、仏の聖業に加わるということになるんです。
司会者は、常にその自覚を忘れてはなりません」
青年たちは、伸一の指導に、目の覚める思いがした。自分たちが、司会の重要性を深く理解していなかったことに気づき、恥じ入りながら、伸一の話に耳を傾けていた。