小説「新・人間革命」 薫風 8 2012年 2月6日

青年たちは、一言も聞き漏らすまいと、真剣な表情で、山本伸一の話を聞いていた。
伸一は、その真摯な姿勢に好感をいだき、少しでも多くのことを語っておこうと思った。
「司会者は、勤行の副導師を務めることもあるので、今日は、副導師の基本についても話しておきます。
副導師をする場合には、まず、導師の声をよく聴いて、その声に、合わせていくことです。導師を差し置いて、先に進んでしまってはならないし、遅くなってもいけません。
そのうえで、白馬が天空を駆けるような、軽快なリズムの勤行にしていくことです。また、大人数で勤行をすると、読経も、題目も、だんだんと遅くなりがちです。
副導師は、それに引っ張られてしまうのではなく、軽やかなテンポで、みんなをリードしていかなくてはならない。
さらに、読経の発音は、明瞭であることが大事です。
そうするには、日々の勤行の際に、いい加減な発音になっていないか、息継ぎの場所は適切かなど、よく注意し、完璧な勤行をめざして、努力していくことです。
ともかく、音吐朗々と、さわやかに、力強い勤行を心がけることです。
この九州訪問では、副導師の訓練もしていきます」
それから伸一は、メガネがよく似合う、秀でた額の青年に声をかけた。北九州文化会館がある小倉北区の男子部長で、歯科医師の福富淳之介である。
「仕事は、うまくいっているの?」
「はい。昨年の三月に歯科医院を開業しました。すべて順調です」
伸一は笑いながら言った。
「それはよかった。嬉しいよ。でも、それならば、今日は、激励するのはやめておきます。すべてうまくいき、幸せそうな人は、励まさなくても大丈夫だもの。
苦しみながら、最悪の状況のなかで、健気に頑張っている人こそ、私は、全力で、生命を注ぐ思いで励ましたいんです。
そうしていくのが仏法者であり、学会の心なんです」