小説「新・人間革命」 薫風 10 2012年 2月8日

三人の青年歯科医は、山本伸一の指導に、大きく頷いた。
最初から懇談会に参加していた、小倉北区の男子部長・福富淳之介は、福岡県田川の出身で、入会は一九六八年(昭和四十三年)三月、九州歯科大学の三年生の時であった。
彼は、人体解剖の実習で、激しい苦悶の表情をした遺体を目にして、衝撃を受けた。
以来、『なぜ、死相に大きな違いがあるのか。何が、それを決するのか』という疑問が、頭から離れなかった。
また、医学の勉強が進めば進むほど、人間の生命の不可思議さに当惑する思いに駆られた。
『なぜ、人は死ぬのか』『死後、生命はどうなるのか』ということが、常に、心にのしかかっていた。
そして、生きることの、はかなさ、もろさを感じ、『どうすれば、限りある人生の時間を、悔いなく生きることができるのか』と、考える日々が続いた。
彼の父親は、田川で歯科医院を営んでいた。父には胆のう炎の持病があり、福富は、小倉の漢方医に薬を処方してもらい、それを実家に届けていた。
その漢方医から、ある時、仏法の話を聞かされた。
「歯科医をめざすあなたには、ぜひ、仏法の生命哲学を学んでほしいと思っていたんですよ。創価学会のことを知っていますか」
「ええ、ある程度は知っています」
福富は、周囲から聞いていた、学会の風評を思い出し、それを語った。
すると漢方医は、厳とした口調で言った。
「拝めば、病気も治り、金も儲かるなどと言って、無知な民衆を騙している宗教というわけですか──とんでもない誤解です。
仏法は、生命の因果の法則を説いているんです。
つまり宇宙の根本法に則って生きることによって、自分を人間革命し、自身に内在する生命力を引き出して、幸福境涯を確立していく道を教えているんですよ」
──「真実は、中傷批判に対する最高の弁明である」とは、アメリカの奴隷解放の父・リンカーンの至言である。