小説「新・人間革命」 薫風 33 2012年 3月7日

中森富夫は、山本伸一に、自分は佐賀県に住んでおり、大学の同窓会に出席するために、東京に来たことを伝えた。伸一は言った。
「明日、横浜にある三ツ沢の競技場で、第九回男子部総会があります。せっかく東京に来たんですから、参加してはどうですか」
中森が頷くと、伸一は、隣にいた幹部に、入場整理券を手配するように語った。
翌日、中森は男子部総会に出席。競技場を埋め尽くした、青年たちの気迫に圧倒された。
また、日本、東洋、世界の平和の実現を訴える伸一の講演に、目の覚める思いがした。
創価学会はすごい! まさに、平和を築く社会の柱だ!』
彼は、大いに歓喜したが、地元に戻ると、仕事に忙殺され、活動からは遠ざかったままであった。しかし、ある時、支部の幹部に懇々と指導された。
「仕事が忙しいのは、わかります。では、いつになったら、本気になって信心するんですか。一生は短い。時は今ですよ。
忙しいなかで時間をこじ開け、広宣流布のために懸命に働くなかに成長もあるし、功徳もあるんです。早く決断して行動を起こすんですよ」
数日後、中森は妻の恵美子と共に、最前線組織のリーダーである組長、組担当員の任命を受けた。彼の腹は決まった。
彼の組長就任を最も喜んでくれたのは、中森が経営する炭鉱とは別の会社で炭鉱作業員をしている、班長の農島重勝であった。
「中森さんが立ち上がってくれて、本当によかったばい。この日の来るのを、ずっと祈り続けてきた。こげな嬉しかことはなかばい」
農島は、生活苦と戦い、周囲に嘲笑されながら、一途に弘教に励んできた壮年である。
農島は、目を潤ませて、ぎゅっと中森の手を握り締めた。中森は、熱い同志愛に触れた思いがした。
彼も泣いた。エリートを自任する、大学時代の仲間たちからは感じたことがなかった、麗しい心の世界であった。
広宣流布とは、互いの幸せを願う民衆の連帯の広がりである。