小説「新・人間革命」 薫風 36 2012年 3月10日
時代は、?石炭?から?石油?へと、エネルギーの転換が図られ、炭鉱経営は、どこも
窮地に追い込まれ、閉山が続いていった。
中森は、必死に頑張り抜いた。坑道で炭塵にまみれて働き、作業服姿で小型トラックに乗って学会活動に駆けつけ、また、仕事に戻ることも、たびたびであった。
一九六六年(昭和四十一年)、彼の炭鉱も閉鎖を余儀なくされた。時代の試練に立ち向かいながら、土木工事、不動産業へと、事業の舵を取っていった。
「すると、あなたは、農島さんに育てられたんですね。いい話だ。その方は、偉大な庶民の指導者です。
学会には、自分は高い教育は受けていなくとも、思いやり、誠実さ、真剣さをもって、多くの人材を育んでこられた方が、たくさんいらっしゃる。
人間を育てるのは、結局は、人間性の温もりなんです。先輩が、格好ばかりつけているうちは、後輩は育たないということです。
ところで、中森さんは、これまでの人生で、いちばん嬉しかったことはなんですか」
伸一が尋ねると、即座に、中森が答えた。
「本日、先生を、こうして佐賀にお迎えできたことです」
日ごろ、感情を露にしない、温厚な中森らしからぬ、勢い込んだ声であった。
「あなたの喜びに応えるためにも、佐賀の未来を考え、私は全力で働きます。ありとあらゆる発展の布石をしていきます」