小説「新・人間革命」 薫風 38 2012年 3月13日

山本伸一に声をかけられた創大生は、緊張をほぐすように深呼吸し、伸一に報告した。
「先生。佐賀県出身の創価大学に学ぶ学生部員で、県人会をつくっています。その団結は、日本一だと思います」
「そうか。同郷の学生部員が、互いに励まし合っているんだね。いいことだね。
私の創った大学に来てくださった皆さんは、私の理想を共に実現していってくれる、本当の師弟であると思っています」
それから伸一は、卒業生たちを見ながら言った。
「創大出身者は、どんどん世界に羽ばたいて行ってもらいたいが、君たちのように、郷土の発展のために黙々と働き、尽力してくれる人の存在も、極めて重要なんです。
自分を育んでくれた両親や家族、そして、故郷の人びとの恩に報いていってください。
これから先、どんなことがあろうが、創大生の誇りを胸に、社会に貢献し、人びとの幸せのため、地域の繁栄のために、粘り強く頑張り抜いていくんですよ。
期待しています」
伸一は、県長の中森富夫に語りかけた。
「創大をはじめ、県外の大学に進学し、学生部員として信心を磨いてきた青年が、佐賀県に帰って来てくれると、心強いね。
そうなれば、佐賀県創価学会は強くなりますよ。
また、佐賀県は、学会のなかで何か一つ、これは『日本一』であるというものをもってほしい。弘教でも、機関紙の購読推進でも、教学でもよい。
何かで一つ、勝利し続けていけば、それが、伝統となり、自信となり、誇りとなっていく。すると、そこから、すべての勝利の道が開かれていきます」
伸一は、再び創大の卒業生に語りかけた。
「みんな、仕事は、何をしているんだい」
寺津克彦は市役所に勤め、この日、運営役員をしていた同じ一期生の杉瀬茂は、小学校の事務職員をしていた。
また、もう一人の一期生は、父親が経営する登記測量事務所で働いていた。皆、故郷で就職先を見つけることが、最も難しかったと言う。