小説「新・人間革命」 薫風42 2012年 3月17日

懇談会で山本伸一は、壮年たちに視線を向けながら語った。
「みんなのあとには、若い力が育っているから安心だね。青年だよ。青年を励ますことに、全力を注ごうよ」
すると、脊振本部の壮年の本部長をしている酒田英吉が、伸一に言った。
「本当に青年の激励が大事だと痛感いたします。実は、私自身、青年時代から、先生に、何度も激励していただき、信心を貫くことができました。
二十年前の山口開拓指導の折に
は、徳山の旅館で、種々、ご指導いただき、月見うどんまでご馳走になりました。ありがとうございました!」
「よく覚えています。二十年前は、もっと額が狭かったのに、広くなりましたね」
笑いが渦巻いた。
酒田英吉は、一九五四年(昭和二十九年)の九月、二十四歳で入会した。
履物の卸店で、一日中、汗まみれになって働いても、給料は安く、未来には、なんの希望も見いだせなかった。
『俺は、このまま、何もできずに、年を重ねていくのか』と思うと、居ても立ってもい
られない気持ちがした。しかし、入会し、学会活動に参加すると、自分にも成すべき大事なことがあるように思え、次第に元気が出始めた。
翌五五年(同三十年)五月、静岡にいる戸田城聖のもとに、男子部一万人が集った、豪
雨のなかでの集会に参加した。
その席上、青年部の室長の伸一は、「私たちは、戸田先生の弟子であり、弟子には、弟子の道がある」と力説。
日本、世界の民衆を救うため、広宣流布の闘士となって、永遠の勝利を打ち立てていこうと叫んだ。
 酒田は、伸一の気迫に圧倒された。未来に希望が見えず、ひっそりと埋もれていくように思っていた、自分のいじけたような人生観が砕け散り、使命に目覚めた瞬間であった。
青年を覚醒させるものは、青年の気迫と情熱である。炎のごとき、魂の叫びである。