小説「新・人間革命」 薫風 52 2012年 3月29日

輸送班のメンバーが九州総合研修所から帰って行ったあと、山本伸一と峯子は、勤行の折に、徳永明の妻・竹代の平癒を祈った。
日蓮大聖人は、「病によりて道心はをこり候なり」(御書一四八〇ページ)と仰せである。
さらに、強盛な信心を奮い起こし、見事に病を乗り越えてほしいと真剣に祈念した。
それから伸一は、宝前に供えた果物を、徳永竹代に届けてほしいと、研修所にいた佐賀県男子部長の飯坂貞吉に頼んだ。
峯子も「回復をお祈りしております」と伝言を託した。
飯坂は、翌日の早朝、徳永の家を訪れた。
彼は、果物を手渡し、峯子の言葉を伝え、なぜ、早朝の訪問になったかを語った。
「当初、私は、今朝、研修所を出発しようと思っていました。ところが、昨夜、先生は、私をご覧になると、『今日、戻るんじゃなかったのか。
早く佐賀に帰る人を探して頼んだんだよ』と言われたんです。
それならば急ごうと思い、昨夜遅く、研修所を発ち、徳永さんが仕事にかかる前にお渡ししようと、こんな時間におじゃましてしまいました」
徳永夫妻は、先生は、佐賀の一会員のことを、ここまで気遣ってくれているのかと思うと、涙があふれて止まらなかった。
竹代は、暗夜のような苦悩に沈んだ心に、温かい慈愛の太陽が差し込んだ思いがした。
励ましは、勇気の火をともす。励ましは、希望の種子を芽吹かせる。
この日を境に、彼女の病状は、少しずつ快方に向かっていった。
何日かした時、徳永は、寝息をたてて熟睡する妻の姿を見た。跳び上がらんばかりの喜びを覚えた。
伸一の佐賀訪問が伝えられた時には、竹代は健康を回復していた。二人は語り合った。
「竹代は、先生、奥様の激励で良うなった。佐賀文化会館も完成し、先生も訪問される。感謝と御礼の思いで、会館に何か寄贈したいな」
「そがんね。なんがよかろうかね」
「先生は、師子王じゃけんのう。師子王を迎えるにふさわしいもんがよかばい」