小説「新・人間革命」 人材城 18 2012年 4月30日

懇談会で、婦人部の阿蘇本部長の村野ヒロミが、山本伸一に報告した。
「私は、熊本市内に住んでおりますが、派遣で阿蘇を担当しております。阿蘇にもスズランが咲いています」
彼女は、主に北海道や中部地方以北の本州に咲くスズランが、九州の阿蘇にも咲いていることを伝えたかったのである。
しかし、伸一は、スズランのことには触れずに、彼女の自宅から阿蘇の担当地域まで、どのくらいの時間がかかるのかを尋ねた。
「車で、片道二時間ほどです」
すると伸一は、車の車種や排気量、性能、そして、車のローンのことなどについて、矢継ぎ早に質問していった。
毎日のように通うだけに、足となる車の安全性や、経済的な面について、確認しておきたかったのである。
人こそが、学会の最高の財産である。ゆえに伸一は、皆が絶対に交通事故などを起こすことがないよう、常に、細心の注意を払っていたのだ。
伸一は、車についての村野の話を聞くと、笑顔で言った。
「それなら、大丈夫だね。安心しました。無事故で、使命の天地で頑張ってください」
さらに、県北に位置する玉名の本部長を務める原谷永太が自己紹介した。
年齢は四十歳で、建築業を営む、がっしりとした体格の壮年であった。十人きょうだいのうち、六人が総ブロック幹部以上の立場で活躍してきたという。
伸一は尋ねた。
「お仕事の方は大丈夫ですか」
「今は、本当に順調にいっております。
実は、六年前に、父親が千五百万円を超える借金を残して、夜逃げをいたしました。
その時は絶望の淵に立たされましたが、信心を根本に、工務店を営んでいる二人の弟と協力して、全額、返済することができました。
それによって、仏法に対する絶対の確信をつかみました。
今は、むしろ、父親に心から感謝しています」