小説「新・人間革命」 人材城 19 2012年5月1日

一九七一年(昭和四十六年)九月、工務店を経営する原谷永太のもとに、父親の借金の連帯保証人になっていた叔父がやって来た。父親が姿を消したというのである。
父親も工務店を営んでいたが、瓦生産の事業にも手を出して失敗していた。
しかし、長男の永太をはじめ、次男の正太、三男の正輝が、負債の返済のために、経済的な支援をしてきた。
二人の弟も工務店を経営していた。
借金は、完済間近のはずであった。
叔父は、「親父は、借金が払えんで逃げたんじゃなかか?」と、永太に言った。
『そんなことは、絶対にない]と思った。
永太は、すぐに二人の弟を呼んだ。兄弟で話し合ったが、父親が逃げ出す理由など、全く思い浮かばなかった。
ところが、父親の失踪を知って、次々と取り立てに来た業者や銀行の担当者に借用書を見せられ、三人は青ざめた。残りの借金は、総額千五百万円を超えていたからだ。
しかも、叔父だけでなく、父の友人も連帯保証人になっていた。父親が借金を返済しなければ、その人たちに迷惑がかかってしまう。
結局、わかったことは、月々の支払いに追われ、焦った父親が、赤字の仕事も請け負ったため、借金がふくらみ続けていたということであった。
父親は、信心に反対してきた。しかし、兄弟三人は、壮年部と男子部の幹部である。彼らは、『あの一家は学会員なのに!』という批判の声が広がることが耐えがたかった。
「学会の先輩に、指導ば受けに行こう!」
永太が言った。三人で車に乗り、熊本会館に向かった。皆、黙っていた。言葉はなくとも、互いの胸の内はよくわかった。
父親は、勝手に事業に手を出した揚げ句、借金を残して逃げてしまった。その父への憤怒を、必死にこらえているのだ。
『信心の邪魔ばっかして、今度は、家族ば裏切った! 許せんばい!』
三兄弟は、同じ気持ちであった。