小説「新・人間革命」人材城 38 2012年5月24日
彼は、文房具を一括購入し、市価より安価で配布するなど、心を配らねばならなかった。
牧口は、東盛、大正、三笠、麻布新堀の各校では夜学校の校長も兼任していくことになる。
夜学校は、昼間、労働しなければならない貧困家庭の児童が通えるように、尋常小学校に併設された学校である。
彼は、すべての子どもに愛情を注いだが、貧しい子ども、悩める子どもには、特に心を砕いた。また、権力に迎合し、身の安泰を得るような生き方を嫌った。
ここも、貧困家庭が多く、読み書きができない親もいた。就学率は低かった。
牧口は、自ら児童の家を家庭訪問し、「学校なんか、行かないで働け!」という親を、説得して歩かねばならなかった。
この大正小で、ある時、地元の有力者が、自分の子どもを特別扱いするように、校長の牧口に頼みに来た。
断ると、その有力者は、東京市政を牛耳る大物政治家に、牧口の排斥を要請する。
牧口には、『教育にかかわりのない者が権力にものをいわせて教育に口を出すべきではない』という、一貫した強い信念があった。
大物政治家は、前々から、それが面白くなかったようだ。そこで、地元有力者の意向を聞き入れ、牧口を左遷する。
権力におもねらず、信念を貫こうとすれば、迫害という嵐が競い起こる。それに負けぬ強さをもつことこそ、改革者の条件である。