小説「新・人間革命」人材城 46 2012年6月2日

山本伸一は、懇談会に参加していた、学生部の代表に視線を移した。
グレーのスーツを着て、メガネを掛けた、痩身の青年が立った。
熊本大学の医学部五年の乃木辰志です。学生部の部長をしております。これまでに医学部の学友などと仏法対話を重ね、四人が入会いたしました」
「そうか、すごいな。みんなの将来が楽しみです。北九州でも歯科医の青年たちとお会いしたし、九州の創価学会は、お医者さんが多いのかね。
ところで、君のご両親は?」
「健在です。母は信心していますが、父は反対しています。それが悩みです」
「青年には、両親が信心していないことで悩んでいる人が多いが、急いで入会させようと、焦る必要はありません。
特に、君の場合は、お父さんがおられるからこそ、医学部で学ぶことができるんだから、人一倍、感謝の心がなければいけません。それが、仏法者です。
お父さんとお会いしたら、『お父さんのおかげで、大学に行かせていただいております。
ありがとうございます』と、心から御礼を言うことだよ。できるかい」
「はい!」
「それなら、今、ここに、お父さんがいると思って、言ってみてごらん。ここで言えなかったら、面と向かった時には、もっと言えなくなるよ」
乃木は、「はい」と言って、深呼吸を一つすると、緊張した声で言い始めた。
「お父さんのおかげで、大学に行かせていただいております。ありがとうございます。
さらに、医学と仏法を極めていきます」
すかさず、伸一の言葉が返ってきた。
「そこで、『仏法』を出すからいけないんだ。そんな必要はないんです。君自身が『仏法』であり、君自身が『御本尊』なんです。
御書にも、そう書かれているじゃないか。大事なのは、親を思う子としての振る舞いです」