◇ 「生命尊厳の絆 輝く世紀を」(下) 2012-1-28

持続可能な未来に向けて人類共通の目標を設定
 
6月にブラジルで「リオ+20」の会議
 災害に続き、第2の柱として取り上げたいのが環境と開発をめぐる問題です。
 6月にブラジルで、国連持続可能な開発会議(リオ+20)が開催されます。
 1992年の地球サミットから20周年を迎える現在までの成果を再検討するもので、主要テーマは「持続可能な開発及び貧困根絶の文脈におけるグリーン経済」と、「持続可能な開発のための制度的枠組み」となっています。
 このうち前者のグリーン経済については、まだ定義が固まっていませんが、経済成長と環境保全の案分をめぐる調整的な概念として限定することはもとより、経済成長の新しいモデルづくりや雇用創出を図るための手段的な概念に狭めてはならないと訴えたい。
 国連環境計画が昨秋行った国際青年会議では、グリーン経済を「人々の幸福、社会的公正、環境保護を同等の重みをもってとらえる、真に持続可能な、唯一の一体的枠組」と位置付ける宣言を採択しました。
 世界の青年の代表たちによる未来への責任感に満ちた意欲的なビジョンとして私も強く共鳴します。
 そこで私は、国連のミレニアム開発目標=注5=に続く新たな取り組みとして、持続可能な未来を築くための共通目標の制定を強く呼びかけたい。
 先日、リオ+20に向けた最初の意見取りまとめの文書が発表され、そこでも「持続可能な開発目標」の必要性を提起する内容がありました。この機を逃さず、人類と地球が直面する課題を総合的に見据えた議論を深めていくことが求められます。
 これまで国際社会では、国連のミレニアム開発目標に基づいて、貧困や飢餓で苦しむ人々の削減などが目指されてきました。
 いわば、生まれた国や育った環境によって命の格差や尊厳の格差が生じている状態を、さまざまな角度から改善することを目指したもので、一定の成果を得てきましたが、目標期間が終了する2015年以降の新しい目標設定が必要との声が高まっています。
 ゆえに私は、貧困や格差がもたらす地球社会の歪みの改善を求めたミレニアム開発目標の精神を継承しつつ、どの国の人々も避けて通ることのできない「人間の安全保障」に関する諸問題への対応を視野に入れた、21世紀の人類の共同作業としての目標を掲げるべきだと訴えたい。そしてリオ+20で、新たな共通目標を検討する作業グループを設置し、対話プロセスを開始することを会議の合意事項に盛り込むべきだと考えるものです。
 その柱となる理念として、これまで論じてきた「人間の安全保障」に加えて、私が挙げたいのは「持続可能性」の理念です。
 では「持続可能性」の意味するところは何か──。私がこれまで論じてきた文脈に沿って表現するならば、それは「誰かの不幸の上に幸福を求めない」生き方であり、「故郷(地域)や地球が傷つけられたままで、次の世代に受け渡すことを良しとしない」精神であり、「現在の繁栄のために未来を踏み台にせず、子どもや孫たちのために最善の選択を重ねる」社会のあり方といえましょう。
 それは、何か義務感のような形で外から縛り付けるルールでもなく、重苦しさを伴った責任感のようなものでもない。むしろ、経済学者のジョン・ガルブレイス博士が私との対談集(『人間主義の大世紀を』潮出版社)で、21世紀の目指すべき姿として提起していた「人々が『この世界で生きていくのが楽しい』と言える時代」を築くために、皆で持ち寄り、分かち合う心ともいうべきものです。
 私がかつて、国連のミレニアム開発目標について、「目標の達成はもとより、悲劇に苦しむ一人一人が笑顔を取り戻すことを最優先の課題とすることを忘れてはなりません」と注意を促したのも、博士と同じような思いからでした。
 そのために必要となる倫理は、何もゼロから新しくつくりあげる必要はないでしょう。なぜなら、北米の先住民であるイロコイの人々が「すべての物事は、現代の世代だけでなく、地面の下からまだ顔を見せていないこれから生まれてくる世代にまで思いをはせて考えなければならない」との教えを伝承してきたように、さまざまな伝統文化や宗教に息づいていた生活実感──現代人の多くが見失ってきた精神の中に素地があるからです。
 仏典にも、「目に見えるものでも、見えないものでも、遠くに住むものでも、近くに住むものでも、すでに生まれたものでも、これから生まれようと欲するものでも、一切の生きとし生けるものは、幸せであれ」(中村元訳『ブッダのことば』岩波書店)との教えがあります。
 新たな目標の基盤となる倫理を規定する上では、外在的なルールとしてではなく、こうした生命観に根ざした誓いとしての性格を、教育や意識啓発を通じて帯びさせることを目指す必要があるでしょう。
 具体的には、貧困や格差の問題をはじめ、災害のような突然襲いかかる脅威を真摯に考慮すると同時に、生態系の破壊を食い止め、生物の多様性を保護するための課題を掘り下げ、考察していく。そして議論を重ねる中で、地球上の人々の生存・生活・尊厳を未来にわたって守り抜くためには、どんな生き方が求められ、いかなる社会を築いていくべきなのかを、世界の英知を結集して探求すべきだと思うのです。
 
原発に依存しない社会へ 日本は早急に政策検討を
 
放射能汚染による現在進行形の脅威
 今年は、国連の定める「すべての人のための持続可能エネルギーの国際年」にあたりますが、世界のエネルギー問題を考える上でも「持続可能性」を重視することが欠かせません。
 これに関して触れておきたいのは、原子力発電の今後のあり方についてです。
 福島での原発事故は、アメリカのスリーマイル島での事故(1979年)や、旧ソ連チェルノブイリでの事故(86年)に続いて、深刻な被害をもたらす事故となりました。
 今なお完全な収束への見通しは遠く、放射能によって汚染された土壌や廃棄物をどう除去し貯蔵するかという課題も不透明なままとなっており、現在進行形の脅威として多くの人々を苦しめています。
 事故のあった原発から核燃料や放射性物質を取り除き、施設を解体するまで最長で40年かかると試算されているほか、周辺地域や汚染の度合いが強かった地域の環境をどう回復させていくのかといった課題や、放射能が人体に及ぼす晩発性の影響を含めて、将来世代にまで取り返しのつかない負荷を及ぼすことが懸念されています。
 私は30年ほど前から、原発で深刻な事故が起こればどれだけ甚大な被害を及ぼすか計り知れないだけでなく、仮に事故が生じなくても放射性廃棄物の最終処分という一点において、何百年や何千年以上にもわたる負の遺産を積み残していくことの問題性について警鐘を鳴らしてきました。
 この最終処分問題については、いまだ根本的な解決方法がないことを決して忘れてはなりません。
 また、国連の潘基文事務総長が、原子力事故には国境はなく、「人の健康と環境に直接の脅威」となると述べた上で、「国境を越えた影響が及ぶことから、グローバルな議論も必要」(国連広報センターのホームページ)と指摘しているように、もはや自国のエネルギー政策の範疇だけにとどめて議論を進めて済むものではなくなってきています。
 日本は、地球全体の地震の約1割が発生する地帯にあり、津波による被害に何度も見舞われてきた歴史を顧みた上でなお、深刻な原発事故が再び起こらないと楽観視することは果たしてできるでしょうか。
 日本のとるべき道として、原子力発電に依存しないエネルギー政策への転換を早急に検討していくべきです。
 そして、再生可能エネルギーの導入に先駆的に取り組んでいる国々と協力し、コストを大幅に下げるための共同開発などを積極的に進め、エネルギー問題に苦しむ途上国でも導入しやすくなるような技術革新を果たすことを、日本の使命とすべきではないか。
 また、その転換を進めるにあたっては、社会や経済に与える影響を考慮し、これまで原発による電力供給を支えてきた地域に、他の産業基盤の育成を含めたさまざまな手立てを講じていくことなども必要になると思います。
 
IAEAを中心に取り組むべき課題
 国際社会の課題としても原発にはさまざまな課題があり、各国が協力して対応を図ることが急務となっています。
 国連の潘事務総長は、チェルノブイリ原発事故から25年を迎えた昨年4月に現地を訪れた直後の寄稿で、「今後、原子力の安全問題には、核兵器に対するのと同じ真剣さをもって取り組まねばならない」(「インターナショナル・ヘラルド・トリビューン」フランス版、昨年4月26日付)と、国際社会に注意を促しました。
 核兵器の使用はもとより、その開発や実験に伴う放射能汚染も、原発事故が引き起こす汚染も、被害を受ける人間の身においては変わるものではなく、もうこれ以上、事故が繰り返されてはならないのです。
 1954年にソ連で世界初の原発が稼働してから半世紀以上が経ち、寿命を迎える原子炉が多くなってくる一方で、世界の原発の稼働数に比例するように、放射性廃棄物の量も増加の一途をたどっています。
 これまで、国際原子力機関IAEA)を通して、原子力の平和利用について研究開発や実用化、科学・技術情報の交換をはじめ、軍事的利用への転用防止などの面を中心に整備が進められてきました。
 しかし、原発の稼働から半世紀以上を経た現在の世界を取り巻く状況、そして福島での事故の教訓を踏まえて、従来の任務に加え、原子力の平和利用の出口を見据えた国際協力の整備を進めることが必要となってきているのではないでしょうか。
 私は、国際原子力機関を中心に早急に取り組むべき課題として、設立以来進められてきた「放射性廃棄物の管理における国際協力」のさらなる強化とともに、「事故発生に伴う緊急時対応の制度拡充」や「原子炉を廃炉する際の国際協力」について検討を進め、十分な対策を講じることを呼びかけたいと思います。
 
 
 

 
 
 
 
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