小説「新・人間革命」厚田 5 2012年6月20日

寺院に埋葬を拒否された学会員の悩みは、深刻であった。夫を亡くしたある夫人は、遺骨を抱えて寺に行くと、住職に、吐き捨てるように言われた。
「あんたは学会に入り、先祖代々の宗派を捨てた。
ご先祖様と寺を裏切ったんだ。当寺とは無縁だ。埋葬などできるわけがない!」
彼女は、これまで、親戚にも、一生懸命に仏法対話してきた。親戚は、この事態を目にすると、ここぞとばかり、夫人に迫った。
「ほら、言わんこっちゃない。学会員は、墓にも入れてもらえんじゃろう。亡くなったご主人も浮かばれんよ。
それで、何が幸福になれるじゃ! あんたも、いい加減に、目を覚ましたらどうかね」
悔しかった。だが、埋葬できる墓はない。
「墓のことと、学会の信心で幸せになれるかどうかは別問題です。墓なんかなくたって、夫は必ず成仏しています」
こう言い返すのが精いっぱいであった。
そして彼女は、学会本部に窮状を訴えてきたのである。
山本伸一は、学会の渉外部長として、戸田城聖亡きあとは総務として、この墓地問題にも全力で対応してきた。
その交渉のなかで、埋葬拒否は、仏教各派が学会の折伏を恐れ、離檀防止のためにとった、卑劣な対抗策であることを痛感した。
折伏という教義論争に対して、教義によって応ずるのではなく、故人を弔うための墓を盾に、学会に抗しようとしたのだ。宗教者にあるまじき行為といえよう。
たとえ改宗しようとも、墓地を使用する権利が、奪われることなどあってはならない。
伸一は、会員を励ます一方、率先して寺側と交渉にあたり、誤りを正していった。
また、聖教新聞紙上で、墓地使用を禁じられても、決して泣き寝入りなどせず、墓地使用の正当性を厳然と主張し抜くべきであると、呼びかけたこともあった。
同志を守るために、全力で戦い抜く人がいてこそ、会員は安心して信心に励めるのだ。