小説「新・人間革命」厚田 7 2012年6月22日

山本伸一を乗せた車は、墓地公園内にある戸田講堂の玄関前に止まった。墓園を運営する職員の代表ら数人が、笑顔で迎えてくれた。
車を降りると伸一は言った。
「厚田に、創価の師弟の故郷ができたね。これから、一緒に新しい歴史を創っていこうよ。君たちこそが、そのパイオニアだ。戦うということは、道を開くことだよ」
伸一の呼びかけに応えるように、メガネをかけた温厚そうな壮年が、微笑を浮かべて語った。
「ご来園、誠にありがとうございます!」
墓地公園の所長である伊藤順次である。
伸一は、出迎えてくれたメンバーに、じっと視線を注いだ。皆、明るい表情をしていたが、目の下に、うっすらと隈ができていたり、目が充血したりしていた。
睡眠時間を削りながら、開園の準備に精を出してくれたのであろう。
学会初の墓園である。完成に至るまでのすべての仕事が、試行錯誤の連続であったにちがいない。
そう思うと伸一は、皆を、力の限り讃えずにはいられなかった。
「すごい墓地公園になったね。本当に、ご苦労様! 日本一です。いや、世界一です。
最高に荘厳で、最高に優雅です。これ以上のものは、ほかにありません。創価学会の誇りとなるでしょう。
この墓地公園は、皆さんの汗の結晶です。ありがとう!」
こう言って、深く頭を下げた。
墓地公園の建設に携わった職員たちは、伸一の言葉に、?先生は、自分たちの苦労を、わかってくださっている!?と思った。
それだけで、すべての努力が報われた気がして、目頭が熱くなった。
リーダーにとって不可欠な要件は、陰の労苦を、敏感に感じ取り、時を逃さず、それを讃えることができるかどうかである。
人の苦労がわからぬリーダーは、結果的に、人びとのやる気を削いでしまうことになる。