小説「新・人間革命」厚田 10 2012年6月26日

山本伸一は、戸田旅館の主に、商売を繁盛させるための源泉こそ、信心であることを語り、さらに言葉をついだ。
「今回、厚田村に戸田先生を記念する墓地公園がオープンしますから、これからは、訪れる人も増えていくでしょう。
私が、初めて戸田先生と、こちらの旅館を訪問した時、先生は、地域の名士の方々と、どうすれば厚田村が発展していくかについて語り合われた。
厚田の発展は、先生の願いです。戸田旅館は、その戸田先生の心をとどめる、由緒ある場所なのだという誇りをもって、末永く繁栄させていってください」
旅館の主の目には、伸一と語り合ううちに、次第に光が差していった。
戸田旅館を後にした伸一たちは、厚田の海岸に向かった。
暗い海に、沖を行く船の明かりが見えた。辺りには、波の音だけが響いていた。
伸一は、峯子、正弘と浜辺を歩いた。
「ここだ! ここだよ!」
彼は、こう言って立ち止まった。
「ここで戸田先生は、私に、『君は、世界の広宣流布の道を開くんだ。構想だけは、ぼくが、つくっておこう。君が、それをすべて実現していくんだよ』と語られたんだ。
私は、その言葉通りに、世界広布の道を開いた。戦い抜いてきた。そして、SGI(創価学会インタナショナル)も誕生した。
いよいよ、これからが、本格的な建設に入る。予想もしなかったような、障魔の嵐も吹き荒れるだろう。でも、それを乗り越えてこそ、世界広布の本当の朝が来る。
だから、これから先、どんなことが起ころうとも、何があろうとも、狼狽するようなことがあってはいけないよ。
広宣流布を進めるということは、難を呼び起こしていくということなんだから。
天も私を捨てるがよい。いかなる難にも遭おう。身命をなげうつ覚悟である──というのが、大聖人の御覚悟であった。それは、会長就任以来の、私の誓いでもある」