小説「新・人間革命」 2013年 1月31日 法旗49

立ち退きの件で困り果てた岩田サワは、関西総支部長の春木征一郎に指導を求めた。
 「そうか。しかし、考えてみれば、今の家に、これまで住まわせてもらっただけでも、感謝すべきではないかね」
 岩田も、それはよくわかっていた。だが、問題は、これからどうするかなのだ。
 春木は、笑みを浮かべた。
 「大丈夫だよ。祈り抜けば、必ず道は開ける。悩みは、乗り越える直前が、最も苦しいものなんだ。山登りだって、八合目、九合目がいちばん大変じゃないか。
 腹を決めて、祈り、戦い抜くんだ。頂上はすごいぞ!」
 山本伸一が、初めて岩田と会ったのは、その直後のことであった。
 関西本部にいた伸一に、春木が岩田を紹介し、病苦や経済苦をかかえながら、女手一つで娘を育て、『広布の母』として活躍していることを告げた。
 伸一は、包み込むように、彼女に語った。
 「あなたには、幸せになる権利があるんです。宿命に泣いてきた人だからです。また、あなたには、幸せになる使命があるんです。地涌の菩薩だからです。
 これまでの一切の苦労は、すべて仏法の力を証明していくためにあったんですよ。
 泥沼が深ければ深いほど、蓮の花や実は大きいといわれる。悩みや苦しみが大きければ大きいほど、幸せも大きい。
 信心をしていくならば、苦悩は心の宝石になるんです。変毒為薬の仏法なんです。それを必ず、心の底から実感する時が来ますよ。
 今は、まだ、『大変だな。苦しいな』と思うことが多いでしょうが、あなたは、既に幸せの大道を歩き始めているんですよ。人びとの幸福を真剣に願って、学会活動に励んでいること自体がそうなんです。
 以前は、自分の幸せしか考えなかったでしょう。
 しかし、今は、人の幸せを考え、広宣流布の使命に生きる喜びと充実をかみ締めている。そのことが、境涯革命している証拠ではないですか」
 岩田は、心に光が差した思いがした。