小説「新・人間革命」 勇将 23 2013年 3月11日

ハンセン病は、日本でも古くから知られていた病であったが、その対応が法律で定められたのは、一九〇七年(明治四十年)のことである。
 「癩予防ニ関スル件」という法律がつくられ、ハンセン病と診断した場合、医師は行政官庁に届け出るとともに、その家は、消毒や予防を行うことが定められた。
 また、療養の方法がなく、救護者のいない患者は療養所に入れ、救護することもうたわれている。
 この法律は、三一年(昭和六年)に改正され、「癩予防法」となった。
 そこでは、患者が病毒を伝播させてしまうおそれのある職業に従事することを禁じていた。
 さらに、患者が使用した古着や古布団、古本等々、病毒に汚染した疑いのあるものは、売買や授受を制限、禁止し、消毒や廃棄を命じている。
 また、病毒伝播のおそれのある人は、療養所に入所させることが盛り込まれ、結果的にすべての患者が強制隔離されたのである。
 確かな医学的根拠のない法改正であり、それが、職業選択の自由も、居住地を選ぶ自由も奪い、発症した人たちへの偏見と差別を固定化させることになるのだ。
 一九三一年といえば、日本の軍国主義の靴音が次第に高まりつつあった時代である。
 国家に従順する、心身ともに健康、頑健な兵士の育成に力が注がれた挙国皆兵の社会にあって、ハンセン病にかかった人は、排斥すべき対象とされたのだ。
 法律は、ひとたび施行されれば、どう猛な牙をむいて襲いかかってくることもある。
 政治に無関心であることは、虎が街に放たれるのを看過しているに等しい。
 ゆえに、自分のためにも、社会のためにも、政治を監視することを怠ってはならない。
 ハンセン病に罹患した人や家族への世間の過酷な扱いの事例は、枚挙にいとまがない。
 石を投げつけられたり、家まで燃やされたという証言もある。
 また、患者の家族が、買い物に来ても、箸を使って金銭のやり取りをし、その金は蒸して消毒したとの話もある。
 
■参考書籍
 『ハンセン病関連法令等資料集』国立ハンセン病資料館編集・発行